三浦俊彦「結ぼれ、了解、異文化、鼠−R. D. レインの視線−
『比較文学・文化論集』(東京大学比較文学・文化研究会)1985vol.1-2(通号n.2)pp.37-52 掲載
 
(p.14)
  ジャックはジルを恐れている
  ジルはジャックを恐れている

  ジャックがジルを恐れていると
     ジルが思っていると
     ジャックが思うならば
  ジャックはジルをますます恐れる

  ジルがジャックを恐れていると
     ジャックが思っていると
     ジルが思うならば
  ジルはジャックをますます恐れる

       ジャックが恐れていると
     ジルが思うだろうと
  ジャックは恐れているものだから
     ジャックは自分がジルを
       恐れていないふりをする
  ためにジルはジャックをますます恐れるだろう

       そして、ジルが恐れていると
     ジャックが思うだろうと
  ジルは恐れているものだから
     ジルは自分がジャックを
       恐れていないふりをする
  こうして
     ジャックはジルを恐れないことで
       ジルを恐れさせようと試みる

  ジャックがジルを恐れれば恐れるほど
     いっそうジャックはおびえる
          ジャックが恐れていると
       ジルは思うだろう、ということに

  ジルがジャックを恐れれば恐れるほど
     いっそうジルはおびえる
          ジルが恐れていると
       ジャックは思うだろう、とういことに

  ジャックがジルを恐れれば恐れるほど
     いっそうジャックはおびえる
  自分がジルにおびえないということに
  かくも危険な者と直面しながら
  恐れないというのは非常に危険なことだからだ

  ジャックはおびえる、ジルが危険な者だから
  ジルは危険な者にみえる、ジャックがおびえるから

  ジルがジャックを恐れれば恐れるほど
     いっそうジルはおびえる
  自分がジャックにおびえないということに
                  (前掲#1)
(次ページに続く)