三浦俊彦「結ぼれ、了解、異文化、鼠−R. D. レインの視線−
『比較文学・文化論集』(東京大学比較文学・文化研究会)1985vol.1-2(通号n.2)pp.37-52 掲載
 
(p.4)
 ジルとジャックはともに欲してほしいと欲する

 ジルはジャックを欲する、欲してほしいと欲するから
 ジャックはジルを欲する、欲してほしいと欲するから


 ジャックが欲してほしい、と彼女が欲してほしい、と
 彼が欲したら、お返しに
 彼女が欲してほしい、とジャックが欲してほしい、と
 ジルが欲してほしい、と
 ジャックが欲してほしい、と
 ジルが欲してほしい、とジャックが欲してほしい、と
 彼女が欲してほしい、と彼が欲したら、お返しに
 彼女が欲してほしい、とジャックが欲してほしい、と
 ジルが欲してほしい、と
 ジャックが欲してほしい、とジルは欲する
            はてしなく繰り返すこと
                  (前掲#3)

 「結ぼれ』(knots)の一年前に出版された『自己と他者』(Self and Others, 1969)には、レインが精神療法の現場で観察した対人関係のそのような形式が了め理論化されているが、その本の<付録>としてレインは、「二者関係のための記号法」なるものを提示している。それはごく簡単なもので、まず
 その人自身を P
 その人が自分自身をみる仕方を P→P
 その人が他者をみる仕方を P→Oとする。
同様に
 他者を O
 他者が彼自身をみる仕方を O→O
 他者がこの自分をみる仕方を O→Pとする。(次ページに続く)