< 三浦俊彦による書評:加地大介『なぜ私たちは過去へ行けないのか』 (三浦俊彦の時空)
      

三浦俊彦による書評

★ 加地大介『なぜ私たちは過去へ行けないのか』(哲学書房)

* 出典:『読売新聞』2004年1月11日掲載

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 タイムマシンで旅して過去を変える。それは矛盾かどうか探るのが前半。なぜ鏡は左右だけ反転させるのか。この古典的な問いが後半。
 ふたつとも誰もが一度は考える問題だが、性格はかなり違う。時間旅行の方は、自然法則や宿命論など、壮大な科学や宗教の難問と絡んでいる。鏡の方は、左右じゃなくて前後が反転してるんだろうとか、人間の身体が左右対称だから見方が定まってるだけじゃないかとか、身近な錯覚や習慣の問い直しが比重を占める。
 この正反対とも言える時間と空間のパズルが、著者の思考現場から実況中継されてくる。いったんは納得したものの一晩寝て起きたらまたわからなくなった、という繰り返しが、哲学徒の実態をレポートしていて微笑ましい。
 後半は、回転座標をイメージする読者の能力が試されたりして粘着度が増すが、前半の軽やかな「ターミネーター2」談義に乗れれば最後まで漂うことができる。副題どおり「ほんとうの哲学入門」だ。

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