展覧会評
 巨大な塔と呼応して些細なディテールにも一言述べておかなければならない。「展覧会チケットの半券を提示していただければ、当日に限り何度でもギャラリーに再入場できます」という小さな但書きが、ペラ紙ギャラリーガイドの隅っこに記されていたことである(チケットにはなぜか記載はなかったが)。入場券にふつう記されているはずの文句「再入場できません」と対照をなして、なんというか、芸術空間内外の区別を解消したトータル・インスタレーションにふさわしいような、あるいは何度でも肉体に出入りし再生する芸術魂の輪廻転生にぴったりの空気を醸し出しているような、稀に見るインターフェイス的な時空の揺曳に立ち会っているかのような感覚に襲われた。

(注)文中、( )内にT、Uの番号付きで頁を記したのは、二分冊の美術展カタログ『ILYA KABAKOV LIFE AND CREATIVITY OF CHARLES ROSENTHAL』(水戸芸術館現代美術センター刊、一九九九年)のそれぞれ第一分冊、第二分冊の中の参照箇所である。第一分冊は主に展覧会コンセプトと展示作品の企画ドローイング、第二分冊は主に展示風景と作品の写真から成っている。(了)