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三浦俊彦による書評

★「2001年単行本・文庫本ベスト3」
(1)ダニエル.C.デネット『ダーウィンの危険な思想―生命の意味と進化』(青土社)
(2)近藤隆夫『すべては敬愛するエリオのために―グレイシー一族の真実』(毎日コミュニケーションズ)
(3)毎日新聞・旧石器遺跡取材班『発掘捏造』(毎日新聞社)

* 出典:『リテレール別冊15 今年読む本 一押しガイド2002』(メタローグ)2001年12月1日号


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 格闘技界に現在のバーリ・トゥード・ブームをもたらしたグレイシー柔術・エリオ一族。その人間模様を、著者自らの取材によって綴る(2)は、ヒクソン・グレイシーという無敗のカリスマが引退するや否やが囁かれる今だからこそ、最高に読みごたえがある。著者の筆致はグレイシーにきわめて共感的であり、とかくその「傲慢な」言動が嫌われてヒール扱いされがちな彼らへの親しい視点をもたらしてくれた。思えばグレイシーこそは、明治日本の講道館柔道を武道として伝承してくれた文化功労者なのだ。ブラジルの日本武術家を、アメリカン・レスリングで鍛えた日本人レスラーが迎え撃つ構図は、比較文化論としても第一級の素材だろう。とりわけヒクソンは私と同年齢であるだけに、彼の去就は個人的にも注目しないではいられない。
 格闘技術の研究が進んで、あれほど連戦連勝をきわめたグレイシーも最近はなかなか勝てなくなってきた。技術の自然淘汰が着々と進んでいる。(1)は、その自然淘汰理論の元祖であるダーウィン進化論のインパクトを、現代思想のさまざまな分野に追跡した八百頁に及ぶ大著。哲学者の著作にしてはすいすい読めてしまう。著者デネットの言うとおり、ダーウィン進化論がニュートン力学や相対性理論をも凌ぐ人類最高の恐るべき科学理論であることが納得されてくる。
 淘汰といえば(3)がリポートした遺跡捏造は、学界での競争にからむ功名心ゆえの出来心かとも思われたが、どうも最近の報道によると、最初期からの常習的工作だったらしい。そこには「学界の期待を実現させたい」「人々に喜ばれたい」という、個人レベルでのロマンがあったようだ。なんとも自閉的な、倒錯したロマンだ。考古学界にはダーウィン的メカニズムに則ったきびしい自己淘汰の自浄努力を求めたい一方、こうしたスクープを実現させたマスコミの気概に拍手したい。

[付属コラム]

 私やテクノ系

 遺伝子組換えとかクローンとかいった報道を見るたびに、つくづく私ゃテクノ系だなあ、と思う。よしやれ、もっとやれ、やれることは全部やれ、宇宙開発も素粒子物理も人工知能もなんでもやれ。進めるとこまでどんどん進め。進めば進むほど世の中、面白くなる。
 しかし、とくに生命が絡むと「神の領域だ」とかいって新技術応用に反対する輩が必ずいるのには腹が立つ。そんなにホモ・サピエンスが自己改良してゆくのがこわいのだろうか。そういう人は海の底に戻れと言いたいね。魚が陸から海に這い上がって、どんどん新しい境遇に挑戦して、そういう勇気あっての今のこの人類ではないか。新生物へ脱皮してゆく気概、それを失ったらおしまいですよ。われわれ人類文明を継ぐのは遺伝子操作で生まれたスーパーミュータントか、超知能を持ったロボットかわからないが、早くそういう存在に科学や芸術や政治を託さなくちゃ。
 だって見てよほら。ビルを爆破されたから空爆だ、地上戦だと、ああいうバカをやり合ってるのが人類なんですよ。いつまでも人類のままでいちゃあ先が見えてるでしょ。私はテロにも報復にも大反対、むろん人道的な理由もあるけれど、それ以上に、ああいうことをやってると進歩が遅れてしまうからだ。ア~ア、あの莫大な戦費を、太陽系探査に、電脳開発に、SSC(超大型素粒子衝突器)建設に、使えばいいものをなァ。

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