格闘技界に現在のバーリ・トゥード・ブームをもたらしたグレイシー柔術・エリオ一族。その人間模様を、著者自らの取材によって綴る(2)は、ヒクソン・グレイシーという無敗のカリスマが引退するや否やが囁かれる今だからこそ、最高に読みごたえがある。著者の筆致はグレイシーにきわめて共感的であり、とかくその「傲慢な」言動が嫌われてヒール扱いされがちな彼らへの親しい視点をもたらしてくれた。思えばグレイシーこそは、明治日本の講道館柔道を武道として伝承してくれた文化功労者なのだ。ブラジルの日本武術家を、アメリカン・レスリングで鍛えた日本人レスラーが迎え撃つ構図は、比較文化論としても第一級の素材だろう。とりわけヒクソンは私と同年齢であるだけに、彼の去就は個人的にも注目しないではいられない。