三浦俊彦による書評

★「単行本・文庫本ベスト3+ 」
(1)アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン『「知」の欺瞞』(岩波書店)
(2)ポール・エドワーズ『輪廻体験』(太田出版)
(3)大崎善生『聖の青春』(講談社)
・付属コラム「2001年地中への旅」

* 出典:『リテレール別冊』n.14(2000年12月)掲載


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 (1)(2)は、世にはびこる欺瞞を指弾した快著。(1)は、フランス発の無内容なポスト・モダン哲学を、(2)は、東洋思想の影響のもとに西洋に広まりつつある「生まれ変わり」という非キリスト教的迷信を、それぞれ容赦なく批判している。ともに、批判対象とする原典を数多く挙げてその主張と論理を詳細に検討した堅実な仕事である。
 とりわけ(1)は、退廃したヨーロッパ思想の「知的不誠実」をいつかは誰かが徹底的に告発しなければならないとつねづね思っていた私としては、拍手喝采して迎えたい快挙だ。ソーカルの偽論文事件で頂点に達したアメリカの「サイエンス・ウォーズ」という標題のもとに、大学政治や差別問題など社会問題の一環として位置づけられてしまうことの多いこの本だが、「学問は誠実でなければならない」というごく当り前のモラルを主張したものとしてまずは虚心に読まれるべきだろう。混沌とした政治問題の中に融解させてしまっては、ソーカルらの最も有意義な議論の矛先が逸らされてしまう。
 この二つのレベルの混同は、認識的相対主義を広めた科学論(科学哲学)に対する批判と、ポストモダン哲学に対する批判とが同時に展開されることが一因だろう。この二種類の批判を区別して読むことが大切である。前者はその「科学の現場から遊離した、誤解を招く内容」ゆえに、後者はその「不適切なスタイル」ゆえに攻撃される。ソーカルらは前者との間には正面からの政治的討論の構えを見せ、後者は端的なナンセンス、不道徳な詐欺として、問答無用に切り捨てるのである。本書の真髄は、どちらかといえば後者の批判にあると見るべきだと思う。
 なお、今年は、文庫本をまだ三冊以上通読していないので、文庫ベスト3を挙げることはできなかった。

 「2001年地中への旅」(「付属コラム」より)

 去年の夏から、ミミズを飼っている。生ゴミ処理用の、シマミミズである。いま概算、十万匹近くには増えていると思う。

 それにしてもシマミミズの威力は凄い。初期設定として、土は不要。千匹くらいから始める。ミミズの群れの中に、果物の皮、野菜片、茶殻、コーヒーかす、古い菓子、新聞紙、ダンボール……炭素系のゴミをどんどん投げ込んでやればよい。片っ端から食って、良質の泥に変えてくれる。要するにミミズたちのウンコなのだが、これが良質の有機肥料。庭に撒けば植物の栄養となる。オシッコもまた、貴重なミネラル水として利用できる。
 増えたミミズは庭に穴を掘って放し、ダンボールやゴザをかぶせておいてやればよい。ナメクジやダンゴムシやコオロギやクモやヤスデと仲良く共存しているありさまは全くほのぼのする。庭中を虫天国にするのが夢。
 ミネラル水採集用の蛇口つきミミズ箱として、「キャノワーム」という製品がお薦めだ。インターネットで検索すれば、いくつかの業者のHPを通して購入することことができる。ミミズ関連本の通販もある。
 21世紀は遺伝子操作と宇宙開発の時代になるだろう。私はどちらも大賛成、どんどん進めろ派だが、ともに「足元の大地の感触」から遠く離れてゆくような気がする。であればこそ、ミミズの目になって地中の小さな虫たちや微生物の風景を想像してほくそ笑みたい毎日なのである。

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