三浦俊彦による書評

★ 安藤健二『封印作品の謎』太田出版

* 出典:『読売新聞』2004年11月07日掲載


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 テレビ番組『ウルトラセブン』第十二話と『怪奇大作戦』第二十四話。劇場映画『ノストラダムスの大予言』。漫画『ブラック・ジャック』第四十一、五十八話。これらは、映像ソフトや単行本から除外されているばかりか、紹介記事や言及すらタブーになっている「封印作品」だ。
 放送禁止用語として公共の電波に乗らない表現も、個人向けの出版物では、無削除で製品化されるのが普通である。本書で論じられる封印作品よりずっと過激な差別表現に満ちたDVDソフトも、ごく普通に売られている。
 つまり巡り合わせが悪かったのだ。たった一通の抗議文のために、制作サイドが面倒を避けて抹消する。必然性があって無いような封印の経緯を調べ始めた著者の眼前に明らかになるのは、まことにミステリアスな事件史だった。発売当日に回収されたLD。封印で発生したプレミアを利用する商売人たち。とくに『ブラック・ジャック』の封印事情には、ノーベル医学賞を受けながら今は否定されている疑惑医療や、東大医学部の学内政争もからむ。バブル前後の日本社会の暗部に立ち合ったような臨場感。
 取材の難航ぶりもスリリングだ。抗議の出所がついに不明だったり、取材拒否や不気味な警告を受けたり、はたまた制作者本人が封印の事実を知らなかったり、無関心だったり。著者自身にしても封印の善悪を論じたいわけではなく、表現の自由や封印作品の芸術性に思い入れがあるわけでもなく、観賞後「意外に面白くないな」と醒めた感想を漏らしたりしている。
 ではなぜ本書にこれほどの熱がこもっているのか。その秘密を明かすのは最終章。実は著者の書いた新聞記事がもとで、学校用教育ソフトの採用が流れた。著者自身が封印に一役買っていたのだ。その罪滅ぼしではあるまいが、新聞社を退社して歴代の封印事件の取材に専念したあげく生まれたのが本書なのだ。まさにジャーナリスト生命を賭けた、渾身の一撃である。

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