![]() |
★三浦俊彦『サプリメント戦争』(講談社、10月30日発売。301pp. 1,800円 表紙画像) (雑誌『治った!』v.3, p.69 より引用。連載「健食の達人」より) ![]() ![]() ![]() サプリメント小説をやっと書き上げた。 「健康食品をテーマにした小説を」と依頼されたとき、フム、そりゃあ面白いのがすぐに書けるぞ、と思った。なんせ健康業界てのは背景の厚い文化だ。いろんな切り口がある。主人公として、ただちに二十通りもの人物像が思い浮かんだ。 ダイエットに奮闘努力する女性。健康と不健康の境目のドラマを演じてくれるだろう。 精力回復、絶倫回春を求める老夫婦。バイアグラブームの後とくればそれか。 マルチ・ハイにのめり込む主婦、もよさそうだ。アメリカン・ヘルスケア通販の「ディストリビューター」に登録して知人を勧誘しまくり昇進していって、ビジネス的達成と宗教的昂揚に酔う新しい生き方、ってか。 家族の難病(癌がわかりやすかろう)をアガリクスやプロポリスで治そうと奮戦する人物。シリアスな悲喜劇が描けるだろうな。 百二十年人生計画を立てて完璧な健康生活を守る男。完璧な胎教を心掛ける妊婦。あるいは、錠剤フリークの夫とナチュラル派の妻(環境保護団体か何かに勤めていることにするか)が対立する、ミニ家庭争議モノ。 ハーブ・エクスタシーでトリップする芸術家のサークル。あるいはマニアの集会。 一人暮らしの司法試験受験生が三食カップめん+大量のサプリメントという生活を続けるうち錠剤中毒に、なんてのも。 健康食品を一つの武道と考え、道に外れた買い方や摂り方している人々を諌めたり懲らしめたりしてゆく男。迷惑確信犯パターン。漢方薬局の店主とするのがいいかな。 経血や精液など人体成分で究極の健康食品を作る研究に情熱を捧げるマッド薬剤師。胎盤や母乳がすでにサプリメントになっているからそんなに現実離れもしてないだろう。 マツモトキヨシなどチェーン量販店の風景を観察調査する社会学者、あるいは小説家、なんてのを視点に据えてもいけるかな。 そう。サプリメント小説を執筆中の小説家、てのを主人公にしようかとも考えたのだ。ある主人公を立てて物語を書き始めては途中で破棄し別の主人公で書き直す、というのを繰り返すうちに、小説家自らが真の健康食品道に目覚めてゆく、とか……。この手だと、いままで思いついた主人公候補を、無理なく全部書き込むことができる。欲張れる。フム悪くないアイディアだ。しかし小説内小説という手法は難解になりかねない……。 あれこれ主人公を決めかね迷っていては進まないので、とりあえず家じゅうの錠剤やドリンク剤や粉末剤やカプセル剤や健康茶を書斎に集めて、それらの発売元、成分、味、パッケージデザインなどデータを細かく記録・整理するのに没頭することにした。そうするうちに方針も浮かんでくるだろう。 実在のサプリメントをどっさり並べてみて感じたのは、『変身妖華茶』『男のなかの男』『感じるふたり』『スーパー勃喜源』『脳天毒姫』……タイトルからして冗談としか思えない真面目怪しげ系がいかに多いか、ってこと。サプリ先進国アメリカと比べても断然、日本ならではの大特色である。 フム。ここはやはり、サプリメントそのものに主人公やってもらわなきゃ。サプリ自ら雄弁に現代を語ってもらおう。人物はその手助けでいい。顔も名前もなくていい。 というふうに、我ながら予期しないような小説が仕上がったのだった。講談社刊です。 |