三浦俊彦による書評

★ 赤瀬川原平、大平健『文学校』(岩波書店)

* 出典:『読売新聞』2004年8月29日掲載

あるいは アマゾンで購入

 赤瀬川原平の著作をテキストにして、『豊かさの精神病理』の大平健が赤瀬川本人から文章術を教わる。執筆心理の臨床研究ともなりうる異例の対談だ。
 美術と文学を股にかける芸術家が素材だから話は無尽蔵。「楕円」の比喩による発想法の分析が一番面白い。路上観察という自由な活動ですら家元制度さながら型をなぞりたがる追っかけさんたちに触れた箇所なども、うんうん頷きながら読める。
 だが、企画の素晴らしさから期待された妙味が出ていないのはなぜだろう。大平が「プロの生徒」「尋問」と称するわりには無垢な一ファンになりきって、常識的な賛嘆に終始したせいか。専門の精神医学の視点で遠慮ない所見をぶつけていたら、原典の赤瀬川文体が持つズレた理屈やなごみ系の驚異が本書に乗り移ってきたであろうに。絶妙のマッチメイクだっただけに、対談という行為の難しさを印象づけるような読後感が残念。
楽天アフィリエイトの成果(ポイント)は本ホームページのメンテナンス費用にあてさせていただきます。
 ご協力よろしくお願いいたします