「アナロジー analogy」(三浦俊彦)

* 出典:『記号学大事典』(柏書房,2002年5月)


 複数のものが共通に持つ性質。もしくは、複数のものが共通の性質Xを持つことから、別の性質Yも共通に持つはずだと推論すること。類推。例えば、以前目にした黒い鳥が「カア」と鳴いたので、いま目の前にいる黒い鳥も「カア」と鳴くだろう、と推測すること。Xを持つ個体を多数調べれば調べるほど、そして、Xを持つ全個体のうちYを持つ個体の比率が大きければ大きいほど、類推が正しい確率が高くなる。これは「帰納的推論」の原理として、統計的数値で信頼度が表わされる。
 アナロジーには、確率的に評価できない非帰納的な推論もある。多数ではなくただ一つの個体の性質から別の個体が持つ性質を推測する場合だ。例として、「他人の心」を信じることが挙げられよう。心は、その定義上、誰しも自分の心という唯一の事例しか直接に経験できない。にもかかわらず、友人aや知人b、テレビでしか見たことのないd,e……らも自分の心に似た内面を持つと私は推測する。この根拠は、唯一の事例「私」が持つ性質と同じ多くの性質を、a,b,c……が持つということだろう。これは、事例の数ではなく、共通性質の数によって信頼度が評価される類推だが、何をもって「性質」として数えるに値するかが難しく、統計的数値化は困難もしくは不可能である。よって、類推を拒んで「私だけが心を持つ」と主張する独我論者を反駁することは至難となる。
 確率的に評価できないだけでなく、確率的な評価が見当外れであるようなアナロジーとして、創造的な類推がある。メタファー(隠喩)がその代表だ。「心が温かい」「太陽が微笑む」「アイディアが閃く」といった表現は、心理と温度、天体と表情、思考と光という、異質のカテゴリーの現象間に類似を発見、というより創り出し、両カテゴリーへの認識を増進させる。「高い音」のように、隠喩が字義どおりの表現に転化して、日常の認識に不可欠となったアナロジーもある。

 参考文献: ネルソン・グッドマン『事実・虚構・予言』勁草書房 1987年
       佐藤信夫『レトリック感覚』講談社学術文庫 1992年