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三浦俊彦(談)「出会いは予備校時代、明晰さの虜に−ラッセルの『哲学入門』」
『ダカーポ』n.570(2005/10/19号)p.27(特集・私の死ぬほど好きな1冊)

 ★三浦俊彦さん(哲学者/和洋女子大国際社会学科教授)
 ・B.ラッセル(著)『哲学入門』(ちくま学芸文庫、1050円)
 ・10月20日には、『ラッセルのパラドクス』(岩波新書)が刊行される。
 ・「僕(三浦)が読み込んだのは角川文庫(生松敬三訳)。いい翻訳でした。


 出会いは予備校生の頃。現代国語の問題に引用されていた。いいこと言っていると感動。
「大学は文学部でしたから哲学や思想の書物を読もうという欲求はある。入門として定評のある本を読みましたが、ラッセルがダントツによかった」
 定評というと、サルトルやヤスパースなど。
「分かりきったことを言っていて驚きもないし、論証もしていない。ただ言ってるだけという感じがして。でもラッセルは、とにかく理路整然と理屈を積み重ねていく。もともと数学者ですから、論理がはっきりしていて腋に落ちたんです」
 スキがないってことですか?
「あるんでしょうけど、なぜこう言うのか、納得がいく。他の人の言説は、その人と同じニュアンスや感性を持っているという前提がないと入り込めない。ラッセルは、数学の証明が誰にとっても同じであるように、共通の言語で議論する。理科系の人の方がしっくりくるかも」
 一番気に入った部分は?
「哲学の価値という章。ざっくばらんに言うと、哲学は確実な知識をもたらしていないのではないかという問題がある。他の学問は知識を与えてくれるが、哲学は? 訳わからんと」
 ええ。
「哲学は確実なことが言えたとたん他の学問に分離していく。だから哲学が確実な知識を与えないというのは見かけ上のことだ、といいます」
 生物の系統図の一番ねっこって感じですかね。
「それともうひとつ。他の学問は確実な知識を得れば、そこで満足できる。でも人間には探究が必要で、人間の能力では届きそうもないところもあえていろいろ考える。世界に対する好奇心や探究心をいきいきと保つ作用が、哲学にはあると」
 はー、果てがなさそうです。
 「これだ! と思ったんですね。それで哲学に進もうと」
 哲学にもいろいろあります。
「例えば老子や荘子などの東洋思想は『世界は複雑なもの』と言う。それは真実ではある。だけどとっぴなことが起きても、たまにはそんなこともあるさと達観しちゃう。フランスやドイツもちょっと東洋思想に近い」
 ラッセルはイギリス人です。
 「英語圏の思想は、まず『世界は単純なもの』とモデルを作る。で、その仮説が外れると、正直に驚く。なんでだろうと」
 そこから怒濤の追求が?
 「しゃかりきになって一生懸命説明する。東洋思想は何が起きてもあるがまま。不誠実といえば不誠実で自分は驚かない。あまりかわいくないんです。英語圏はかわいいんですよ(笑)」