三浦俊彦「アドホック日記」(2003年1月7日)- 吉田秀彦プロ3戦目/しかるに猪木語が……<

  
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 困ったものだなあと。
 いや、2002,12/31の『イノキボンバイエ2002』のことだが。
 いや、イベントそのものはまことに面白かったのだが。
 ボブ・サップも期待どおりの大暴れだし。ミルコもやはり藤田に「存在を消」されたりするどころじゃないし。ベルナルドも意地の復活を遂げてくれたし。
 だから、困ったのはなんというか、そう、『朝日新聞』12/31の26-27面全面に猪木の談話とカード紹介がでっかく載ってたんですけどね。
 その中の、注目の〈柔道王対空手王〉吉田秀彦VS佐竹雅昭のところに猪木の談話としてこうあったんですよ。
 「オレたちの商売ではキャラクターが絶対。プロは客を呼んでナンボ。だから『負けても光が当たる』場合があるのがプロの面白さ。吉田には、それがわかる試合をしてもらいたいね」
 この言葉、格闘技ファンの人々はどう見るのかなあ……。プロレスファンの目からしたってどうだろうなあ。
 格闘技に縁遠い人のために説明します。ここで猪木が何を言わんとしているかといいますと、ありていにいうと、吉田秀彦に「あんまり早く勝つな」「むごい負かし方はするな」て言ってるわけですね。早い話が「手加減しろ」ってわけですよ。勝つよりも、見せろ、演じろ、と。
 しかしねえ……。これ、佐竹雅昭に対してすごく失礼な気がするんですけど。
 むしろ佐竹にいう言葉ですよね。「粘れ、簡単に勝たせるな」と。引退試合だっていうし、意地でも持たせろ、と。
 で、実際の試合はどうだったかと言いますと、50秒ですね。50秒で前方首固め、タップを奪って吉田の勝ちです。古舘が「赤子の手をひねるように!」と何度も絶叫してましたっけ。確かに引退試合としては50秒殺はムゴイと言える。
 しかしそれがプロなのではないか。プロ歴が吉田の何十倍もある佐竹はそれを十分わかっているはずだ。勝てるときに確実に勝つのが真剣勝負。真の格闘家。そして吉田のそれをさばいて「見せる」だけの技術が佐竹になかっただけのことなのだ。
 この世界の厳しさを見せつけられたことで、心ある格闘技ファンは観客冥利に尽きる思いを味わっただろう。
 ほんと、猪木的な、プロレス的な短期的配慮は有害なんですってば、これは。
 もっと長期的に、真剣勝負の信憑性を根付かせてゆく。それが真の意味で格闘技という文化を育てるんですな。
 あァ、吉田がああいう勝ち方をしてくれてホントよかった。あまりに予想通りすぎたが。
 それにしても20世紀には考えられなかった夢の「柔道王対空手王」が50秒……。
 うーん……。私、高校柔道部のとき、部員同士で「空手対策」のシミュレーション稽古をやったものだ。結論は、「寝技に持ち込めば勝機はある。しかし空手には『抜き手』といって、至近距離からでも相手の筋肉の割目に指を突き刺すワザがあるという。だめだ。やはり空手には勝てない」。
 『空手バカ一代』で育った世代ですからねえ。
 よくも騙してくれたなと怒っている人ってどのくらいいるんでしょうか。