三浦俊彦・観戦記「ヒクソン・グレイシー vs 船木誠勝5.26東京ドーム決戦」

* 出典:『K-Files』vol.4(2000年5.26東京ドーム決戦完全速報号)掲載


 試合経過も、そして結果も あらゆる意味で理想的

 ヒクソンが負けたらどうしようと思っていた。思えば記念すべきグレイシー越え第一号・高橋義生の対イズマイウ戦で司令塔となったのが船木誠勝だったではないか。なぜ船木vsヒクソンなのかと首を傾げた業界人もいたようだけど、歴史を振り返れば、プロレスvsグレイシーの大団円は、論理的にこのカード以外じゃありえない。代理戦争に先勝していた船木の理論と情熱が、自ら本丸を攻め落とせるのか。そんな大一番だったのだ。
 で結果は? あらゆる点で理想的だった! まず第一に、この時世、幻想とも言える神話が今一度守り通された。この感動は大きい。第二に、最近おなじみのグレイシー必敗形が実現した。寝たまま足を蹴られつづけるヒクソンの姿を誰が本気で予期しただろう。第三に、にもかかわらずヒクソンの強さは圧倒的だった。まがりなりにも苦戦を強いられかけた直後に、あんな模範的マウントポジションで完勝できる格闘家が他にいるだろうか。あれだけの凄みを堪能させてもらって、しかし観客はまだまだグレイシーに温かくない。入場時に船木に十倍の歓声が湧くのはいいとしても、終了時にはそれと同じだけの歓呼がヒクソンに送られるべきだった。VTにも他のスポーツ並みに軽薄なナショナリズムがせり出してきつつある最近の風潮は気懸りだ。毎回無類の技術を見せてくれるヒクソンに、試合中も客席三分の一くらいから声援の飛ぶような日本格闘技界であってほしいと願う。