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江戸川乱歩「哲学者ラッセルと探偵小説」

出典:『あるびおん』1954年5月号掲載

* 再録:『子不語随筆』(講談社,1988年7月刊/江戸川乱歩推理文庫n.63)pp.107-108.

江戸川乱歩「バートランド・ラッセル」

 ロンドン・ディテクション・クラブというイギリス探偵作家のクラブがある。初代会長は、G.K.チェースタトン、二代目は E.C.ベントリー、三代目はドロシー・セイヤーズ女史で、会員は探偵作家三十名ほどの古風で皮肉な会である。
 例会には会長が僧侶のガウンを着て、奇妙な儀軌(会則)を読み上げ、そのうしろには、会の表象である髑髏(どくろ)をビロードの台にのせたのを、一人の従者がうやうやしく捧げて侍立(じりつ)するといった調子だが、昨年(1953年)秋の例会には、哲学者バートランド・ラッセルが賓客として列席した。
 ラッセルは非常な探偵小説好きで、一年三百六十五日欠かさず毎晩一冊ずつ探偵小説を読むといわれている。そのために名誉賓客として招待されたのである。
 ラッセルの探偵小説好きは、彼の数年前の著書 Authority and the Individual(1949)の中の左(次)の一文でもわかる通りである。
'Anyone who hopes that in time it may be possible to abolish war should give serious thought to the problem of satisfying harmlessly the instincts that we inherit from long generations of savages. For my part I find a sufficient outlet in detective stories, where I alternatively identify myself with the murderer and the huntsman-detective'.....'