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「核軍縮、国連で提案を、科学者京都会議が声明 -「核)抑止論」脱却を訴え」

* 出典:『朝日新聞』1981年6月8日朝刊
* 「核の危機訴える科学者京都会議-15年ぶり7日に」

 自然科学者、人文科学者ら日本を代表する知性を集め、核廃絶を求める「第4回科学者京都会議」が七日、京都市上京区の御車会館で開かれた。午前十時から午後五時半まで討議を重ね、「人類存続のために、日本政府は国連の場で、非核三原則を堅持する国の立場から、核軍縮提案を行え」との、約千五百字の声明を発表、閉会した。声明文には二十六人の出席者全員が署名した。(23面に関係記事)

 会議は午前十時に開会。内外の核状況の危機に、五年余の闘病生活をおして開催を呼びかけた湯川博士があいさつ。
ライシャワー発言、(空母)ミッドウェー(右上写真:横須賀港に停泊中のミッドウェー)の帰港問題と、多くの人々が核に関心を抱いております。こんな時にこそ我々は、何度でも初心に立ち帰り、声を大にして核兵器全廃を呼びかけなければなりません。
 と訴えた。湯川氏は健康が許さぬため、開会一時間後にいったん帰宅。会議は、事務局長の豊田利幸名大教授の報告「核兵器開発の現状と核戦略の変貌」を基に、「国際政治の現状をどうみるか」で討論。午後からは、「世界の現状と日本の現状」をテーマにシンポジウム形式で討議。声明文を煮詰めた。
 科学者京都会議は、「人類の全体的破滅を避けるという目標は他のあらゆる目標に優位させねばならぬ」というラッセル=アインシュタイン宣言(一九五五年)の精神をくんだもの。この宣言を受けて一九五七年、カナダ・パグウオッシュで開かれた国際科学者会議に出席した湯川秀樹、(故)朝永振一郎、(故)坂田昌一博士らが中心となり、五年後の日本版パグウオッシュ会議を京都で開いたのが始まり。

「第4回京都科学者会議声明」要旨 → ★全文★

 十九年前の第一回科学者京都会議は、「核兵器による戦争抑止は戦争廃絶の方向に逆行する」こと、「核戦争による人類破滅の危険が増大しつつある今日、憲法第九条が制定当時にもまして大きな新しい意義をもつにいたった」ことを強調し、翌年の第二回会議で、「日本が核非武装の原則を貫き、一切の核兵器のもち込みを拒否すること」によって世界平和に貢献するよう訴えた。さらに第三回の会議は、「私たち日本人は、核兵器を否定することを通じて自らの安全と永続する平和に到達する道をえらばなければならない。」と呼びかけた。
 しかし、核大国間の核軍備競争は、核戦争においても勝利が可能であるとする誤った「限定核戦争」の下で核戦略体制に新たな展開をもたらし、わが国においても軍事力の増強を当然とするかのような風潮がつくられつつある。さらに最近、国内においては平和への道とは逆行して憲法九条改変の動きや「非核三原則」をあいまいなものにしようとする試みが行われている。われわれは今後、「非核三原則」が堅持されるためには、まず日本政府が「核抑止論」から脱却することが必要であり、そのうえで世界に向けて核軍縮のための具体的提案を積極的に行うべきである、と考える。とりわけ来年の国連軍縮特別総会へのわが国の提案に少なくとも次の二点が含まれるべきである。
 一、核保有国は核非保有国に対して、核兵器を決して使わないという取り決めを国連の場で行う。
 二、核超大国は、期限と数量を明示して核兵器の一方的削減を開始することを国連で宜言し、核非保有国を含めた会議においてその内容について真剣な討議を行う。
 核軍縮、さらには全面完全軍縮の最終の目標は、すべての国の安全が軍備を必要とすることなく保障される世界システムを樹立することにある。われわれは今日の状況に絶望することなく、わが国の内部に起りつつある軍事化の動きを逆転させ、世界平和の創造のためにできるだけ多くの人々が立ち上がられることを訴える。
  一九八一年六月七日 京都にて

(科学者京都会議出席者26名氏名)
 飯島宗一(名古屋大学教授、医学)、 石田雄(東大教授、政治学)、大西仁(東北大助教授、国際政治)
 岡倉古志郎(中央大教授、国際政治)、小川岩雄(立教大教授、物理学)、桑原武夫(京大名誉教授、フランス文学)
 小谷正雄(東京理科大学長、物理学)、小沼通二(京大助教授、物理学)、坂本義和(東大教授、政治学)
 佐久間澄(広島大学名誉教授、物理学)、沢田昭二(名古屋大助教授、物理学)、高木修二(大阪大学助教授、物理学)
 高橋進(東大助教授、国際政治)、田中正(京大教授、物理学)、谷川徹三(哲学者)
 戸田盛和(横浜国大教授、物理学)、豊田利幸(名大教授、物理学)、中野好夫(英文学者)
 福田歓一(東大教授、政治学)、伏見康治(名大名誉教授、物理学)、牧二郎(京大教授、物理学)
 松本賢一(富山大教授、物理学)、三宅泰雄(元東京教育大教授、化学)、宮崎義一(京大教授、経済学)
 山田英二(金沢大学教授、物理学)、湯川秀樹(京大名誉教授、物理学)