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「(第4回)科学者京都会議声明」

* 出典:『核廃絶は可能か』(岩波書店、1984年6月。岩波新書(黄版)n.267)巻末所収
* Pugwash Online: Conferences on Science and World Affairs

 今から十九年前に開かれた第一回科学者京都会議は、「核兵器による戦争防止の政策は、戦争廃絶の方向に逆行するものである。」と指摘し、「核戦争による人類破滅の危険が増大しつつある今日、日本国憲法第九条が、制定当時にもまして、大きな新しい意義をもつにいたった。」と強調いたしました。
 その翌年開かれた第二回の会議では「日本が核非武装の原則を貫き、一切の核兵器のもち込みを拒否すること」によって世界平和に貢献するよう訴えました。さらにその二年後に開かれた第三回の会議は「核抑止論」の虚妄と危険性に触れて、「私たち日本人は、いかなるかたちにおいても、核兵器に依存して自らの安全を保障しようなどと考えず、核兵器を否定することを通じて安全を保障し永続する平和に到達する途をえらばなければなりません」と強く訴えています。
 しかし実際には、超大国間の核軍備競争は、今日もとどまるところを知らず進められています。このことは、「核均衡」が安定をもたらすという期待がいかに誤っているかを如実に示すものにほかなりません。さらに、核兵器が「戦争を抑止する」という幻想が流布されていますが、最近においては、核兵器を実際に使用することによって勝利が可能であると主張する「限定核戦争」なる戦略さえ展開されるにいたっています。その上、このような核戦略体制のもとで、通常軍備の増強が核非保有国を含めて世界的規模で進められています。
 これに呼応するかのように、わが国においても「防衛力」の名のもとで軍事力の増強が公然と叫ばれ、しかもそれを当然とするかのような風潮がつくられつつあります。すなわち憲法第九条改変の企て、「非核三原則」のうちの「核を持ち込ませず」の項目を曖昧にしようとする試み等が執拗に行われています
 私たちは日本政府が「非核三原則」を堅守するといっている点を評価し、これが厳密に守られることを望みます。しかしそのためには、政府は「核抑止論」から脱却する必要があると思います。
 あたかも第二次国連軍縮特別総会を明年にひかえて、私たちは、日本政府が世界に向って核軍縮実現のための具体的提案を積極的に行うべきであると考えます。そのような提案には、少くとも次の二点が含まれるべきであります。

 一、核保有国は核非保有国に対して核兵器を決して使わない、あるいは使うといって威嚇するようなことはしないという取極めを国連の場で行う。
 二、核超大国はそれぞれが期限と数量を明示して核兵器の一方的削減を開始することを国連で宜言し、核非保有国を含めた会議において上記期限と数量について真剣な討議を行う。

 前者は核非保有国の安全保障に関するものであり、核兵器の水平拡散を防ぐための最小限の条件と考えられます。また後者はこれまで米ソ両国の間で行われてきた軍縮交渉の行き詰りを打開する政治的状況をつくりだすだけでなく、多くの核非保有国が軍縮討議に実質的に参加する道を開くものと思われます。
 人類の存続のためには、核軍縮の達成が必要であります。しかし核軍縮さらには全面完全軍縮ですら核時代に生きる人類の課題のすべてでないことは明らかであります。最終の目標は、すべての国の安全がそれぞれの国の軍備を必要とすることなしに保障されるような世界システムを樹立することであります
 核軍縮が一向に進展しないばかりか、今なお超大国が核軍拡に狂奔している姿を見て、絶望的な運命論に陥る人もあるかも知れません。しかし現在に生きるすべての人々は人類の存続に責任があることを忘れてはなりません。とくに科学・技術者の責任は重大であります。
 私たちは、焦眉の急として、わが国の内部に起りつつある軍事化の動きを阻止し、これを逆転させて、世界の平和に積極的に寄与する道を開かなければならないと考えます。私たちはできるだけ多くの方々がそれぞれの創意と相互の協力とによって、この緊急の課題を達成するため立ち上がられるよう訴えます。
  一九八一年六月七日  京都にて

有沢広巳 有山兼孝 飯島宗一 石田雄 井上ひさし
宇沢弘文 江上不二夫 江口朴郎 大江健三郎 大河内一男
大田昌秀 大西仁 岡倉古志郎 小川岩雄 貝塚茂樹
川田侃 亀淵廸 久野収 桑原武夫 小谷正雄
小沼通二 小林直樹 坂本義和 佐久間澄 沢田昭二
隅谷三喜男 関寛治 高木修二 高野雄一 高橋進
田中正 田中慎次郎 谷川徹三 田畑茂二郎 都留重人
戸田盛和 豊田利幸 中野好夫 中村研一 西川潤
野上茂吉郎 樋口陽一 福島要一 福田歓一 伏見康治
牧二郎 松本賢一 丸山真男 三宅泰雄 宮崎義一
山田英二 湯川秀樹