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バートランド・ラッセル『科学は社会を震撼した』への訳者(堀秀彦)あとがき

* 出典:バートランド・ラッセル(著),堀秀彦(訳)『科学は社会を震撼した』(角川書店,1956年1月。198pp.)
* 原著:The Impact of Science on Society, 1952.
* (故)堀秀彦氏略歴

訳者あとがき(堀秀彦、1955年)

 この本は、バートランド・ラッセルの『科学の社会に与えた衝撃』(Bertrand Russell: The Impact of Science on Society, 1952)の全訳である。ラッセルについてはいまさら紹介する必要もない。さきに角川文庫のなかにおさめた彼の「幸幅論」のあとがきでも参照してほしい。
 この本の内容について、私は正直のところ、意見や解説をのべるだけの資格をもっていない。ただ、私自身この本を非常な興味とまじめさを以て読了した。私はこの本についてどれだけ教えられたか知らない。戦争、平和、人類の未来、現代人のもっているさまざまな精神的疾患――そういったものについて、この本はシネラマ的な明瞭さを以て、私にたくさん教えてくれた。いや、教えてくれただけではない。文字通り、ラッセルの考え方は、私を圧倒してしまった。「ほんとうに、そうだ!」私は訳しながら、幾度もアンダーラインを引かずにおれなかった。「科学」というものについての考え方をこれ以上はっきり示してくれた本を私は最近読んだことがない。これは科学論であり、人類論の未来であり、最も充分な意味での哲学である。私はこの本が一人でも多くの人々によって読まれることを、ほんとうに希望せずにおれない。ラッセルは何よりも狂信的態度(ファナティシズム)を排撃する。右にもせよ、左にせよ、アメリカにせよ、ソヴィエトにせよ、そのどちらかにファナティックの態度がある限り、話し合いの余地はない。ファナティシズムこそ戦事の責任者なのだ。ラッセルはこのように考える。そして国と国との間においてのみならず、個人の間においてもファナティシズムは争いのもととなった。ファナティシズムを徹底的に排撃する精神、これこそ合理主義であり、科学主義である。私たちはこの本を毛頭ただの科学史として読むべきではない。私はこういう本こそ平和運動のための1つの最もすぐれた啓蒙書であると思う。講演であるし、決して難解とは思われない。私はあえてこれ以上解説をかかない。私はとにかく読者諸君が、じかにこの本を読んでくれることを、平和のために希望する。 一九五五年 訳者