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湯川・朝永両博士の声明(核抑止を越えて-湯川・朝永宣言1975年9月1日)

* 出典:『核軍縮への新しい構想』(湯川秀樹・朝永振一郎・豊田利幸(共編),岩波書店刊,1977年8月刊)pp.341-344.
* 「パグウオッシュ京都会議開く、完全核軍縮求めて科学者ら36人が参加」
* ラッセル=アインシュタイン宣言の着想
* 右下写真出典:『朝日ジャーナル』1975年9月12日号,p.89.

 いまから二〇年前、ラッセルとアインシュタインが宣言を発表し、核時代における戦争の廃絶を呼びかけ、人類の生存が危険にさらされていることを警告した。その宣言の精神に基いて、私たちは、人類の一員としてすべての人々に、次のことを訴えたいと思う。

 広島・長崎から三〇年、私たちは、核兵器の脅威がますます増大している危険な時代に生きている。今私たちは、一つの岐路に立っている。即ち、核兵器の開発と拡散がやむことなく行われていくか、或は、この恐るべき核兵器が絶対に使用されないという確実な保証が人類に与えられるように大きな転換の一歩を踏み出すか、その重大な岐れ路に立っている。
 私たちは、戦争と核兵器の廃絶のために努力を傾けてきた。しかし、それが見るべき成果をあげたとは考えられない。むしろ、その成果の乏しいことに憂いを深めざるをえない。
 「ラッセル=アインシュタイン宣言」が発表された当時は、まだ大量の核兵器は存在せず、世界平和の実現のためにその手始めとして熱核兵器の廃絶を行えばよいという考え方が成り立つ時代であった。だが遺憾ながら、その後、私たちは、核軍備競争をくいとめることができなかったばかりでなく、核戦争の危険を除去することもできていない。また種々の国際的な取決めによって、軍備管理という枠組の中での努力と苦心が積み重ねられたけれども、その成果に見るべきものはない。
 従って、核軍備管理によって問題の解決が可能であるという期待をもつべきではないと、私たちは信ずる。そして核軍縮こそが必要であるという確信を深めざるをえない。というのは、軍備管理の基礎には核抑止による安全保障は成り立ちうるという誤った考え方がある。従って、もし真の核軍縮の達成を目指すのであれば、私たちは、何よりも第一に核抑止という考え方を捨て、私たちの発想を根本的に転換することが必要である。
 もとより私たちは、核・非核を問わず、すべての大量殺戮兵器を廃棄し、また、最終的には通常兵器の全廃を目指して軍備削減を行うことがきわめて重要であると考える。しかしながら私たちは、今日の時点で最も緊急を要する課題は、あらゆる核兵器体系を確実に廃絶することにあると信ずる。
 たしかに核軍縮は全面完全軍縮を実現するための中間目標にすぎない。しかし、その核軍縮ですら、それに必要な政治的・経済的・社会的条件を満たさない限り、その実現はとうていありえない。
 また私たちは、私たちの究極目標は、人類の経済的福祉と社会正義が実現され、さらに、自然環境との調和を保ち、人間が人間らしく生きることのできるような新しい世界秩序を創造することであると考える。もし核戦争が起れば、破局的な災厄と破壊がもたらされ、そうした新しい世界を創ることは不可能となるばかりでなく、史上前例のないほどに人間生活が破壊されるであろう。このように見れば、核兵器を戦争や恫喝の手段にすることは、人類に対する最大の犯罪であるといわざるをえない。このように核兵器の重大な脅威が存在する以上、私たちは、一日も早く、核軍縮を実現するために努力しなければならない。
 私たちは、全世界の人々、特に科学者と技術者に向って、時期を逸することなく、私たちと共に、道を進まれんことを訴える。さらに私たちは、核軍縮の第一歩として、各国政府が核兵器の使用と、核兵器による威嚇を永久かつ無条件に放棄することを要求する。

 一九七五年九月一日     湯 川 秀 樹
                朝永振一郎


宣言署名者
 飯島宗一 W.エプシュタイン 小川岩雄
 H.オルセン M.カプラン E.E.ガラル
 坂本義和 K.スブラマニアム 関寛治
 D.ゼンクハース W.C.ダビドン 豊田利幸
 H.A.トルホック 西川 潤 野上茂吉郎
 B.T.フェルト R.A.フォーク P.ブラウ
 M.マフーズ O.モーレ F.ヤノホ
 山田英二 H.ヨーク G.W.ラスジェンス
 J.ロートブラット 渡部経彦