バートランド・ラッセルのポータルサイト

『バートランド・ラッセル論集』(日本評論社)への例言

* 出典:『バートランド・ラッセル論集』(日本評論社,1921年2月刊。21+4+617 pp. 松本悟朗(他訳))
* 原著:Justice in War Time, 1916; Principles of Social Reconstruction, 1916; Political Ideals, 1917; Roads to Freedom, 1918; German Social Democracy, 1896.

例言 (1921年1月、編者識)

 一、『ラッセル論集』は専ら彼れの社会改造家としての意見を述べたる『社会改造の原理』(1916年出版)、『戦争と正義』(1917年刊(松下注:初版は1916年刊/1917年は改訂版)、『政治の理想』(1917年刊)、『自由への道』(1919年刊(松下注:初版は1918年刊))等を合冊せるものにして、此の中、『戦争と正義』は、原本の後半を省略せり。蓋し、同書の後半は折々の時事問題に関するものにして、さまで必要のものに非ざればなり

 一、右の中、『社会改造の原理』は、ラ氏の画紀元的(ママ)著作ともいうべく、社会改造の根本原理より説き起こして、広く社会各般の問題に関し、その基礎的立場を明らかにせり。『戦争と正義』は、欧州大戦の原因を徹底的に探り、その害悪と帰結とを明らかにし、進んで戦争と正義との関係を説述し、人類の當に執るべき態度を開明せるものなり。又『政治の理想』は専ら政治的方面に関するその改造意見を比較的詳細に訊いて居り、『自由への道』は、主として社会主義、無政府主義、サンヂカリズム等に対する彼の批判を掲げ、その特殊なる立場を表示して居る。此等の全篇を通じて、彼れの社会改造家としての見解と態度とは明白に理解さるべし。

 一、例言及び目次も、本来別々に各論に附すべきであるが、これ亦便宜上一括して本書の冒頭に置くを許して貰いたい。

 一、翻訳の担当者は主して松本悟朗君であるが、単行の各訳書にも断わってある通り、色々な事情から、或る部分に時国理一君が、又或る部分に板橋卓一君が分担した。即ち、『社会改造の原理』中、第7講の終りと第8講の全部とは、時国君、『自由への道』中、第1編の全部は板橋君、第2編の第4章よリ第7章までは時国君、『戦争と正義』は全部時国君の担当で、他はすべて松本君の手に成ったものである。

 一、訳者の異なるに従って、文体、訳語、句読法に、多少の不統一を来たしているが、本書の校正にあたり、務めて文体を統一し、旦つ大方の叱正に基き、或は訳語を改め、或は訳文を補足し、以て飽くまでも読者に忠実ならんことを期したつもりである。

 一、訳語・訳文の巧拙当否は別として、一行と難も故意に原文を省略してないことを断はって置く。唯其筋の注意に依り、所々に点線を施して本文を抹殺したのは、寔に(誠に)巳を得ない事情からである。
 1921年1月 編者識