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アラン・ウッド「バートランド・ラッセルの哲学 - その発展の一研究- Alan Wood: Russell's Philosophy - a study of its development」

* 出典:My Philosophical Development, 1959, by Bertrand Russell

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バートランド・ラッセルの哲学 序文 01


ラッセル英単語・熟語1500
 ラッセルの著作は非常に多くの異なる主題に渡っているので、それら主題の全てに十分な知識を持って、適切な論評を書ける人は -もちろん、ラッセル自身は除いて- 現存者のなかには恐らく一人もいないだろう。筆者(私)もそういう知識を持っているとは全く主張しない。従って、ラッセルについて何か論評する際には、様々な専門的な主題についてラッセルにアドバイスをするために適切な側面を選択する判断力を持っている必要がある。(訳注:身の程を知って自分が専門的に意見やアドバイスが言える主題を選びなさい、という忠告)。誰か一人によるラッセルの著作の完全な記録には、直接知による知識(訳注:knowledge by acquaintance ラッセルに直接聞いて得る知識)とともに、一定程度の記述による知識(訳注:著作を読んで得る知識)に基礎を置かなければならない。そうして、ラッセルについて何か書く者は、探究の範囲に自分が置いている限界(limits 制限)について明確に述べる義務がある。 それは、彼自身の限界(制限)が、書かれる事柄事態の限界(制限)と誤解されることのないようにするためであり、また、同じ分野で他の人のなすべき仕事がどれほど多く残されているかを明らかにするためである。

 私は本書(訳注:未完成に終わった、アラン・ウッド『ラッセルの哲学』)のもつ制限(限界)を、表題によって示しうるかぎりでは示した(訳注:あくまでもラッセルの哲学の「発展」の「一研究」ということであり、個々の主題について深く扱っているわけではないということであり、「一つの」研究でしかないということ)。私は、ラッセルの思想の起源と発展とに関心を持っている。それらの思想が他の人々によってどのように継続・展開されたかについては関心を持っていない。このことを念頭におかないと、私の本はラッセルの偉大さ(stature 名声、地位、偉大さ)について、誤まった印象を与えるかも知れないのである。現代の哲学的思考においてラッセルから発しない重要なものは ほとんどない、と私は信じている(訳注:1950年代の話)。ラッセルの後に出た人々は全てラッセルの影響を受けた人々である(この主張の根拠をいくつか私は本文で示す)。ラッセルについての十分な論評は後(訳注:ラッセル以後)の哲学に彼が及ぼす(であろう)影響も述べなければならない。それは、それについての叙述がなされるには幾世紀もかかるであろう、という意味である。
Preface 01

Russell's work covers so many different subjects that there is probably no single living person equipped with a sufficiently thorough knowledge of them all to write an adequate commentary - with the exception, of course, of Russell himself. The present author makes no claim to be so equipped. It is therefore requisite in any comments as to Russell to have the judgment to select the right aspects to advise him on different specialist subjects. Any complete record of Russell's work by any single hand must be based to a certain extent on knowledge by description, as well as knowledge by acquaintance. And it is the duty of any writer on Russell to be explicit about the limits he places on the scope of his inquiry, in order that his own limitations should not be mistaken for any limitations in his subject, and to make it plain how much work remains for others to do in the same field.

So far as possible, I have tried to indicate the limitations of the present work by its title. I am concerned with the origin and development of Russell's own ideas; not their continuation by others. Unless this is borne in mind, a false impression may be given of Russell's stature; I believe there is little of importance in present-day philosophizing which is not derived from him. The post-Russellians are all propter-Russellians. (I indicate some grounds for this statement in the text.) Any adequate commentary on Russell must take account of his influences on subsequent philosophy; which means that it may be many centuries before it can be written.

(掲載日:2022.10.06/更新日: )