バートランド・ラッセル「全体主義の理論と実際」
『ラッセル思想辞典』所収
* Source: The Impact of Science on Soceity, 1952, chap.3(たとえば,北朝鮮を思い浮かべながら・・・。)
全体主義を信奉する集団は,何らかの有効手段によって権力機構,特に警察と軍隊を掌中に収め,他者を最大限に支配するやり方で,己の地位を極限まで利用する。かかる戦略を支持する理論は,「個人の善」と違う「国家・社会の善」を想定し,「個人の善」から生れない善を達成すると説く。さらに有機的な社会における優秀さは構成員ではなく「全体」に属すると考える。この考え方・理論の欠点は,有機体とその構成要素との関係,社会的有機体とその構成員個人との関係を,不当に類似的に拡大解釈している点にある。政府という機関には,政府構成員個人と違い,感覚反応はありえない。まして,政府には喜怒哀楽の心情もない。政治上,団体の蒙る被害は直接に構成員'個人'が蒙るもので,全体としてのこの'団体'ではない。 (構成員の)一人一人の人間が倫理的単位である。人体の各部分も,多くの人間によって組織化されたもの(組織体)も,(単一の人間と同じ)倫理的重要性を占めることはできない。多数者の善は構成員一人一人の善の総和であって,(個人の善と)別の,また,独立した新しい善ではない。具体的には,国家は市民の善とは異なる善を持つと装う場合、実際に意味されていることは、政府あるいは支配階級の善はそれ以外の国民の善よりもより重要だということである。このような見解は、独裁的な権力を除いて根拠を持つことができないものである。
科学的研究は独裁制とは両立できない。科学技術を利用する独裁制は,自由討議と検証とを求める科学的精神を欠くから,十分に科学的でありえず,科学的進歩が生れないことから,他の弱点を派生する。新しい思想を異端視し,地位の安定感に酔い,怠慢となり,老化する。全世界的規模の連邦制でなければ,いかなる独裁制もその支配層の利己的体制となる。(右上イラスト出典:B. Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953)
Source: Bertrand Russell : The Impact of Science on Society, 1952、chap. 3: scientific technique in an oligarchy.
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