バートランド・ラッセルのポータルサイト

シェア

バートランド・ラッセル「権力悪防止の4条件」

* 原著:Bertrand Russell : Power - a new social analysis, 1938, chap. 18
* 出典:『ラッセル思想辞典』


 権力悪の防止には民主主義少なくとも不可欠であるが、政治的条件だけに限定すると(権力悪の)防止はできない。即ち、
 (1)政治的条件、(2)経済的条件、(3)宣伝条件、(4)心理的・教育的条件、などを配慮しなければならない。


 (1)政治的条件
 社会を暴政から守る唯一の形式は、権力を全員に配分する「多数者の支配」しかない。(しかし)単純で形式的な多数決原理の実践には暴政を招く危険があるから、秩序ある政治と両立するかぎり、政治上、民族上、宗教上の少数者を保護しなければならない。それには、社会が一体となって行動すべき画一的な問題と、逆に個人的な問題とに分けて考える必要がある。また、現代の大国、民主国でも、一般市民が選挙を自分の日常生活に縁遠いものとみる政治離れがある。民主主義が形骸化すると、野心家の食い物となる。民主主義を自分のものと自覚させるには、集団の規模を小さくして親近性を増す必要がある。選挙は地域的なものよりも、職能的である方が望ましい。労働組合や職場では成員が利害関係を共有し、政策問題検討にも親近性が濃厚ゆえ、政治参加の実を挙げやすい。各支部の決定が総合される最終決定に、各成員の賛否が明確に反映し、政治参加の自覚も増し、政治的判断と政治的訓練も行われるから、心理面と政治面で民主化に望ましい。
 連邦組織方式には明確な限界があるが、限界内での効率は望ましくかつ重大である。戦争と平和というような目的のためには、全世界(=世界全体)こそ唯一の適切な組織領域である。
 立法、行政、司法の三権分立は、それぞれに民主化が十分に行われていない。法律を遵守する市民が警察の不当な迫害を受けないためには、二つの警察と二つの犯人捜査課が必要である。(注:被疑者を追求する警察と被疑者を守る警察が牽制しあう)

 (2)経済的条件

ラッセルの言葉366
 古風な民主主義と流行のマルキシズムはともに権力悪防止を目的とし、目標を前者は政治のみに、後者は経済のみに限定して失敗した。
 経済権力の抑制には土地と資本の国有国営以外に完全な解決はないというが、形式主義でない十分な保障と拡充を欠けば、非常に危険なものとなり、人類が未だ経験していない新型の暴政を招く。
 まず「所有権」と「実権」との区別を自覚すべきである。両者は別物で、現代では、経済的権力は、所有権より実権にあるという内容事実を十分理解する必要がある。マルキストは、マルクス=エンゲルスを権威と仰ぐ結果、一八四〇年代の考え方を今もって固持し、所有権と実権とを区分して考えるべき教訓を学び取らない。
 もし市民が官僚を厳重に監督しないと、一切の実権は官僚に掌握され、民主主義は遠ざかる。国家社会主義は、官吏の社会主義で、本来緊密であるべき民主主義と絶縁しやすく、どれほど多くの危険を生むかは、ソ連国内の諸事情が物語っている。中央集権化された独裁的支配のピラミッドの最上段から末端まで、格付けされた官僚機構を通じ、数百万の大小の独裁者が生れる。権力機構は人民圧制の手先となる。極端な専制政治の弊害を防止するには、各組織階級の枠内で権力を広く配分し、従属下位団体に大幅の自治権を与えることが不可欠である。団体は対内的には産業自治を、対外的には連邦主義を採用すべきである。経済的権力と政治的権力との合体は、身震いするほどの新型の暴政を生みだす。

 (3)宣伝条件
 官僚の越権行為や権力乱用を告発する道がなければならない。新聞、雑誌、印刷物、集会所、放送局、その他宣伝や情報交換の資材、場所などが全部国家に管理されれば、政府公認以外の宣伝は一切不能となる。社会主義的とか共産主義的とただ呼ばれるだけでは、国家権力や官僚機構を信頼できない。奇蹟的な善意を期待・信頼する軽信は幼稚な児童心理である。国家社会主義は官僚が行う社会主義であるから、官僚を監視抑制する制度上の保証がない限り、一切は夢に終る

 (4)心理的・教育的条件
 民主主義を成功・永続させる心理的条件には、平等な協力、寛容の精神、科学的な実証精神、用心深い判断力、雄弁にだまされない知性などが必要である。また、民主主義を崩壊させる心理的条件とは、激しい憎悪、暴力的傾向、集団的興奮愛好癖、英雄崇拝、指導者への盲従、情感優先傾向、狂信、独断主義、集団ヒステリー、軽信性、卑屈心、などである。
 幼稚園から大学までの学校と家庭とは、教育を通して民主主義を守る防波堤である。自主性、知的判断力、政治参加、多数決原理尊重、少数意見尊重への配慮、国家は個人への福祉の手段にすぎず目的ではないとの確信、自由な世界観と地球市民たる自覚などが形成されるべき教育的条件である。 (挿絵: From: Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953.)

(To anyone who studies history or human nature, it must be evident that democracy, while not a complete solution, is an essential part of the solution. The complete solution is not to be found by confining ourselves to political conditions; we must take account also of economics, of propaganda, and of psychology as affected by circumstances and education. Our subject thus divides itself into four parts :
(I) political conditions,
(II) economic conditions,
(Ill) propaganda conditions, and (IV) psychological and educational conditions.)

 時間の関係で以下省略します。
 ラッセルの英文は、
https://russell-j.com/beginner/POWER18_010.HTM
から
https://russell-j.com/beginner/POWER18_370.HTM
までのなかに書かれています。