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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

バートランド・ラッセル「全身全霊で喜んだり楽しんだりできる能力」

* (語学テキスト)佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から採録
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.108-1093.

目次
The capacity for whole-hearted joys and sorrows
全身全霊で喜んだり楽しんだりできる能力
The decay*1 of art in our time is not only due to the fact that the social function*2 of the artist is not as important as in former days; it is due also to the fact that spontaneous delight is no longer felt as something which it is important to be able to enjoy. Among comparatively*3 unsophisticated populations*4 folk dances and popular music still flourish*5, and something of the poet*6 exists in very many men. But as men grow more industrialized and regimented*7, the kind of delight that is common in children becomes impossible to adults, because they are always thinking of the next thing, and cannot let themselves be absorbed in*8 the moment*9. This habit of thinking of the 'next thing' is more fatal to any kind of aesthetic*10 excellence than any other habit of mind that can be imagined, and if art, in any important sense, is to survive, it will not be by the foundation*11 of solemn academies*12, but by recapturing*13 the capacity for whole-hearted joys and sorrows which prudence and foresight*14 have all but*15 destroyed.
【ヒント】
 現代は芸術が衰微したがその原因はどこにあるか。フォーク・ダンスや民謡のようなものはどういう人たちが楽しんでいるか。大人が子供のように単純によろこべないのは何のためか。芸術が存続するには,どういうことが第一に必要であるか。
【語句】
*1 decay「衰頽」
*2 social function「社会的機能」
*3 comparatively「比較的に」
*4 unsophistiated populations「わるずれしていない,素朴な人々」 populations と複数になっているのは people に近い意味で,単数は「人口」という気持。
*5 florish[flri]「盛んに行われる」 この語はflower と同じ語源。
*6 something of the poet 「多少の詩人気質」 用例: He is something of a lawyer.(彼は法律も多少知っている。)
*7 regimented 「組織化される」「統制される」
*8 be absorbed in 「~に没頭する」
*9 the moment は前の the next thing と対照になって,「今の瞬間」の意。
*10 aesthetic [i:etik]「美の」「美学的」
*11 foundation 「設立」ここでは「根底」ではない。
*12 academy [kdimi] 音楽とか絵画など特殊技能を教える「学校」,もう一つの意味は,美術,文学などを奨励する学者などの「協会」
*13 recapture 「とり戻す」
*14 prudence and foresight 「分別と先見」つまり人が分別があり先のことを考える故に,となるわけ。
*15 a11 but = almost


【構文】
something which it is important to be able to enjoy で,which は前の something を代表するのはもちろんであるが,これが enjoy の目的語で,次の it は to be able の仮主語。another habit of mind that can be imagined 「想像出来るいかなる他の考え方の習慣」で,非常に強調した口調。

【邦訳】
 現代、芸術が衰微しているのは,芸術家の社会的機能が昔ほど重要でないという事実によるばかりではなく,自然に湧く歓びは,これを味わえるということが重要なものなのだと,もはや人が感じなくなったという事実にもよる。比較的素朴な人々の間では,フォーク・ダンスや大衆音楽がまだ盛んであるし,非常に多数の人に多少の詩心はある。けれども人間が一層産業化し組織化されるにつれて,子供たちにはごく普通に見られるような種類の歓びが大人には不可能になって来る。そのわけは,大人はいつもその次のことを考えていて,今の瞬間に没頭することが出来ないからである。「次のこと」を老える習慣は,想像し得るいかなる他の心の習慣よりも,あらゆる種類の美的優秀さにも致命的である。それで,何かの重要な意味で,芸術が存続しようとするならば,いかめしい芸術協会の設立によってもだめで,思慮分別や先見の習慣のためにほとんど毀(こわ)されてしまった,あの全身的に歓び,また悲しむ能力を取り戻すことによらなければならない。