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牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より 


郷土愛と愛国心
(From: Principles of Social Reconstruction, 1916, chap.2 & 3他)

 生まれ育った土地,なつかしい家族や近隣の人々への偽りのない愛情からほとばしる家族愛(家庭愛),郷土愛の根は,地理風土や生物学的感情にある。この素朴な愛情自体は政治的なもの,経済的なものではない。自分の国を思う感情であり,他国を排斥するものではない。非難される点は何もない。(しかしそれは)現代国家に見られる愛国心とは異なる。
 西欧の少年少女にとって,最も重要な社会的忠誠は,彼らが市民として所属する国家への忠誠であり,国家への義務は政府の命令通りに行動することだ,と教えられる。この教えに疑問を抱かせないように,歴史・政治・経済で偽りを教え,外国の過失は必ず指摘し,自国は善良な「防衛」戦争に立ち上がったと吹き込まれる。自国が戦火を交え,外地を占領するのは,文明を広め,福音を伝えるためだと信じ込ませようと努める。この政策に立脚する国家主義者が願う愛国心を注入するために,民衆のヒステリーや情動性を利用する(例:米国における9.11事件)。これは国家的利益を握る人々が行う,最も恐ろしい現代の悪の源泉である。これは国際関係に精通する人々には,誰にも明白な事実である。

 教育活動の真義は嘘を教えるのではなく,真実を教えることであるはずだ。歴史は世界中の人々に同じように教えられるべきである。戦勝者や占領者の語る歴史は,戦敗者や被占領住民には「嘘」と知れ渡っている。だから,歴史の教科書は,国際連盟の手で交戦国,対立者,中立者を含めて公正に編纂されるべきである。現在すべての歴史教育は,戦争を栄光ある行動と美化している。この点を反省,改革しない限り,平和主義者の努力は空しい。自国の過ちを知ることは甚だ有益かつ健全である。
 愛国心について教えている多くの人は,知的に誤った指導をしているが,倫理的に見れば,教師自身も誤った教育制度で吹き込まれた通りにオウム返しをしている。愛国心と財政との甚だ緊密な関係に注意しなければならない。愛国心という魅力ある言葉に酔うのでなく,知的に冷静な良心を働かせれば,教育は人類の連帯意識と国際的協力の重要さを自覚するに至るだろう。また,万人をあらゆる不幸と死の恐怖から救えるだろう。
 酔いしれていない人々には,国家主義の危険性は明白で,国家主義は人類文化・文明を死へ導く主な力である。
(松下注:挿絵は,ラッセルの The Good Citizen's Alphabet. Gaberbocchus, 1953 より)。
  → ★「国家悪」について