ラッセル『権力-その歴史と心理』第2章:指導者と追従者 n.7

 攻撃性(攻撃的であること)もまた,しばしば,恐怖心に根ざしている場合が多いことは、ありふれたこと(普通のこと)になっている。この説(恐怖心原因説)は(これまで)極端にまで押し進められてきたと,私は考える傾向がある。それ(恐怖心原因説)は,たとえば,D. H. ロレンスの攻撃性など,ある種の攻撃性については,真実である(当っている)(注:世間の評価,またロレンスの自己評価とは異なり,ロレンスは臆病であったと、ラッセルは考えた)。しかし,海賊の首領になるような人間が,自分の父親のことを思い出しては恐怖心を抱く人間であるかどうかは,あるいはまた,アウステルリッツ(の戦い)におけるナポレオンが自分はマダム・メール(注:ナポレオンの母親)に仕返しをしている(抑えられてきた借りを返して対等になる)のだと,本当に感じていたかどうかは,非常に疑わしい。アッティラ(Attila,406? – 453:フン族とその諸侯の王)の母親について私はまったく何も知らないが,どちらかと言うとむしろ,彼女は幼い最愛の息子を(溺愛して)駄目にしてしまったのだと,私は考える。アッティラは,後に,世の中が彼のむら気に時々抵抗したために、(母親のようにアッティラのご機嫌をとらない)世の中はいらいらさせるものだと思うようになったのである。臆病の結果である攻撃性のタイプは,偉大な指導者を鼓舞するものではない,と私は考える。偉大な指導者は,並外れた自信を持った人間であり,そうした自信は表面的なものではなく,無意識に(意識下)まで深く浸みこんでいるものだと言いたい。

Chapter II: Leaders and followers, n.7

It has become a commonplace that aggressiveness also often has its roots in fear. I am inclined to think that this theory has been pushed too far. It is true of a certain kind of aggressiveness, for instance, that of D. H. Lawrence. But I greatly doubt whether the men who become pirate chiefs are those who are filled with retrospective terror of their fathers, or whether Napoleon, at Austerlitz, really felt that he was getting even with Madame Mere. I know nothing of the mother of Attila, but I rather suspect that she spoilt the little darling, who subsequently found the world irritating because it sometimes resisted his whims. The type of aggressiveness that is the outcome of timidity is not, I think, that which inspires great leaders; the great leaders, I should say, have an exceptional self-confidence which is not only on the surface, but penetrates deep into the subconscious.
 出典: Power, 1938.
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