ラッセル『権力-その歴史と心理』第一章 n.2

 昨日から Power, a new social analysis, 1938 (いわゆる「権力論」)
 の連載を開始しました。
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 第1章 権力衝動 n.2:

 想像力は,人間が,一時的欲求が充たされた後,絶え間ない努力を強いられる突っつき棒(goad 刺激)である。我々の大部分は,次のような言葉を吐ける瞬間ほほとんどないと理解している(知っている)。

もし今死ぬとしたら
この上ない幸せだ。というのも
こんなにも満ち足りたせいか,これほどの満足は
未知の運命においては二度と
継起するとは思われないからだ。
[シェークスピア『オセロ』第2幕第1場,p.190-194行〕

 また,我々も,稀にしかない瞬間に(おいて),完璧に幸福な瞬間があれば,オセロと同様に,死を願うのも自然だろう。満足というものは,永続きのしないものだと,我々は知っているからである。永久不変の幸福のために必要なものは,我々人間には(入手)不可能である。神だけが,完全な至福を享受できる(持つことができる)。それは「王国も権力も光栄」も,すべては神のもの(所有物)だからである(His と大文字の所有格になっていることに注意。つまり,「神の」「もの(所有物)/His is A → A is His の倒置形)。地上の王国は他の(敵対する)王国によって限界を設けられる(設けられている)。(即ち)地上の権力は,死のために切り詰められる(cut short 切り上げられる)。地上の光栄は,我々がビラミッドを建てたり,あるいは,また,「不滅の詩に嫁いだ」(注:John Milton の詩 L’Allegro にある言葉から/Wordsworth の Wisdom married to immortl verse はミルトンに倣ったものか?)にもかかわらず(としても),何世紀もの時(代)の経過とともに色あせてしまう。権力と光栄>をほとんど持っていない人々は,後もう少し権力があったらきっと満足するだろうと思うかも知れないが,この点で彼らの考えは間違っている。こういった欲望は,充たすことができず,無限なものであり,限界というものがない神においてのみ,永遠のやすらぎを見出すことができるものである(からである)。

Imagination is the goad that forces human beings into restless exertion alter their primary needs have been satisfied. Most of us have known very few moments when we could have said:
If it were now to die

“Twere now to be most happy, for I fear
My soul hath her content so absolute
That not another comfort like to this
Succeeds in unknown fate.

And in our rare moments of perfect happiness, it is natural, like Othello, to wish for death, since we know that contentment cannot last. What we need for lasting happiness is impossible for human beings : only God can have complete bliss, for His is “the kingdoms and the power and the glory. ” Earthly kingdoms are limited by other kingdoms; earthly power is cut short by death; earthly glory, though we build pyramids or be “married to immortal verse,” fades with the passing of centuries. To those who have but little of power and glory, it may seem that a little more would satisfy them, but in this they are mistaken : these desires are insatiable and infinite, and only in the infinitude of God could they find repose.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER01_020.HTM