ラッセル『結婚論』序論 n.6:法律と性道徳との関係

 法律は,二つの異なる方法(仕方)で性と関わりを持つ。(即ち,)一方では,何であれ(どのようなものであれ)当の社会が採用した性倫理を強制することであり,他方では性の領域における個人の通常の権利を保護することである。後者には,二つの主要な分野がある。一つは,女性や未成年者を暴行(強姦など)や有害な搾取から保護することであり,もう一つは,性病を予防することである。これらのどちらも,通例,純粋にその(本来の)価値に従って(on its merits 価値によって)取り扱われていない。そのために,いずれも期待されるほどの効果(as it might be 可能性としてある効果)を挙げていない。前者について言えば,非黒人売春婦売買(White Slave Traffic)についてヒステリックな(反対)運動をした結果,プロの悪党(悪徳業者)が容易にかいくぐれるような(抜け道のある)法律を通過させる一方,罪のない人びとをゆする機会を与えてしまっている
後者に関しては,性病は罪に対する正当な罰であるという見解(注:不道徳な行為をしたのだから病気になって苦しんでも因果応報という見方)のために,純粋に医学的な根拠に立った最も効果的であろう方策(措置)をとることがさまたげられており,他方,性病は,恥ずかしいものだという一般的な態度によって隠されているために,迅速に,あるいは適切に,取り扱われていない。

The law is concerned with sex in two different ways: on the one hand to enforce whatever sexual ethic is adopted by the community in question, and on the other hand to protect the ordinary rights of individuals in the sphere of sex. The latter have two main departments: on the one hand the protection of females and non-adults from assault and from harmful exploitation, on the other hand the prevention of venereal disease. Neither of these is commonly treated purely on its merits, and for this reason neither is so effectively dealt with as it might be. In regard to the former, hysterical campaigns about the White Slave Traffic lead to the passage of laws easily evaded by professional malefactors, while affording opportunities of blackmail against harmless people. In regard to the latter, the view that venereal disease is a just punishment for sin prevents the adoption of the measures which would be the most effective on purely medical grounds, while the general attitude that venereal disease is shameful causes it to be concealed, and therefore not promptly or adequately treated.
出典: Marriage and Morals, 1929, Introduction.
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/MM-INTRO060.HTM

<寸言>
法律は原則として後追い状態のものになりやすい。現行の法律の欠点や限界があきらかになれば「改正」させるが、どうしても抜け穴をなくすることはできない。悪徳業者などは、その法律の穴を見つけることによって、処罰を受けずに、社会的に非難を受けることをやって金儲けをする。そうして、「法律は犯していない(法律にふれていない)」と言って開き直る。
官僚の多くは法律の知識に長けており、時の権力者に気に入られて、よいポストを得て自ら権力をふるったり、高給を得たり出来るようになる。
風俗営業(企業)からでも政治献金をもらう政治家はいる。いや、賭博その他、社会的に評判の悪い産業だからこそ、より多くの献金やワイロをもらうことができると言うのが実態であろう。