成功体験による「過信」が悲劇を生むことが少なくない

・・・。お互いの生命を脅やかすような競争が,競争者の間に良い仲間意識(連帯感)という感情を産まないだろう,と仮定することは安全である。もしも,近代的な武装を有する2つの国家が前線で対峙していて,両国の指導者が互いに他を侮辱しあうことに専念するとしたら,両方の国民がそのうちに神経質になり,一方の側が他方の側からの攻撃を恐れて攻撃を始めるということも,とてもありそうなことである。(それから)現代における大規模な戦争は戦勝国側においてさえ繁栄の水準を上げないであろう,と仮定することも安全である。
 こういった一般化を理解することは,難しいことではない。難しいのは,具体的な政策が長期的にどのような結果をもたらすか,といったことを詳細に予見することである。ビスマルク(注:ドイツの鉄血宰相)は異常な機敏さによって,三度の戦争に勝利してドイツを統一した。(しかし)彼の政策の長期的結果は,ドイツが二度のとてつもなく大きな敗北(注:第一次世界大戦と第二次世界大戦での敗戦)を被った,ということであった。そのような結果が生じたのは,ビスマルクがドイツ人たちに,自国以外のすべての国々の利害(国益)に無関心であれと教え,侵略的精神を生み出し,そのことが世界中を結束させ,ビスマルクの後継者たちに敵対させるにいたったからである。
限度を越えた利己心は,それが個人の場合であれ国家の場合であれ,賢明とはいえない。その利己心が運よく成功をもたらすこともありうるが,それが失敗した場合には,その失敗は恐るべきものとなる。理論によって支えられない限り,このような危険を冒す人々はごく少ないであろう。というのは,人々を完全に慎重でなくさせるものは,理論だけだからである。

… It is safe to assume that cutthroat competition will not produce a feeling of good fellowship between the competitors. It is highly probable that if two States equipped with modern armament face each other across a frontier, and if their leading statesmen devote themselves to mutual insults, the population of each side will in time become nervous, and one side will attack for fear of the other doing so. It is safe to assume that a great modern war will not raise the level of prosperity even among the victors. Such generalizations are not difficult to know. What is difficult is to foresee in detail the long-run consequences of a concrete policy. Bismarck with extreme astuteness won three wars and unified Germany. The long run result of his policy has been that Germany has suffered two colossal defeats. These resulted because he taught Germans to be indifferent to the interests of all countries except Germany, and generated an aggressive spirit which in the end united the world against his successors. Selfishness beyond a point, whether individual or national, is not wise. It may with luck succeed, but if it fails failure is terrible. …
出典:Bertrand Russell: Ideas That Have Harmed Mankind,1946.
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/0861HARM-190.HTM

<寸言>
連続した「短期的成功」によって自分(たち)の政策が正しいと「過信」することによって、長期的にみれば、未曾有の悲劇や敗北をもたらすことがあることは歴史を見れば明らかである。短期的視野しかもっていない者は、トランプが得意とする deal (取引を繰り返し)、成功(利益)が積み重なると気を良くして大胆になり、結局はそれまでの成功(利益)を帳消しにするどころか、大きな被害を受けるようなことをしてしまう。それが、自分だけが被害を受けるのであれば自業自得であろうが、政治家が自国の国民に災害をもたらすようであれば、政治家まかせにしておくことはできないはずである。