第一次世界大戦時に,英国内の窮乏に陥った敵国のドイツ人を助ける

hikokumin_kairakutei-black 第一次大戦の期間中,クリスマスを迎えるごとに,私は,発作的な暗い絶望感に襲われた。それは,ただ無為に椅子に坐っているだけで,何もすることができず,人類が何かの役に立つものかどうか疑うほどの,(一抹の光もないような)完璧な絶望(感)であった。1914年のクリスマスの時期に,オットリンの助言で,この絶望感を堪え難いものにしない方法を見つけた。(すなわち)私は,慈善委負会を代表して,ひどく貧しいドイツ人を訪問し,その境遇を調査し,必要があれば彼らを窮地から救済する,という仕事にとりかかった。この仕事をしているうちに,激しい戦争の最中に,注目すべき思いやり(親切)のいろいろな実例に遭遇した。稀なことではないが,貧しい人たちの住んでいる近隣で,女家主たちは --自分たち自身もけっして裕福ではないが-- まったく家賃をとらずに,彼らを住まわせてあげていた。なぜなら,彼女たちは,(英国と戦争状態にある)ドイツ人が職を見つけることは不可能である,ということがわかっていたからである。この問題は--ドイツ人がことごとく拘禁されてしまったので,その後まもなく消えてしまった。しかし,第一次大戦の最初の数ケ月間は,ドイツ人の境遇は非常に惨めなものであった。

Every Christmas throughout the War I had a fit of black despair, such complete despair that I could do nothing except sit idle in my chair and wonder whether the human race served any purpose. At Christmas time in 1914, by Ottoline’s advice. I found a way of making despair not unendurable. I took to visiting destitute Germans on behalf of a charitable committee to investigate their circumstances and to relieve their distress if they deserved it. In the course of this work, I came upon remarkable instances of kindness in the middle of the fury of war. Not infrequently in the poor neighbourhoods landladies, themselves poor, had allowed Germans to stay on without paying any rent, because they knew it was impossible for Germans to find work. This problem ceased to exist soon afterwards, as the Germans were all interned, but during the first months of the War their condition was pitiable.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2 chap. 1:The First War, 1968]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB21-070.HTM

[寸言}
戦争が始まると,たまたま自国に住んでいて迫害されている敵国人を助けると非国民として糾弾される。しかし、それが逆の場合(敵国にいる同邦人が敵国人に助けられる場合)は戦後に褒めたたえられる。まったく身勝手だ。
多くの人間は、戦争になればたやすく「集団的狂気」に陥入る。
ラッセルは、この時の経験,「幸福論」の執筆に反映することになる。即ち、「絶望に陥った時はくよくよ考えても救われない,何か有益だと思われるような「行動」をしてみることが一番である」と。