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バートランド・ラッセルの警告(朝日新聞「今日の問題」)

* 出典:『朝日新聞』1958年7月8日付
* 再録:『戦後にっぽん覚え書4:1958-1960(朝日新聞「今日の問題」)』(朝日新聞社、1983年6月刊)

朝日新聞「今日の問題」_索 引


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 イギリスの哲学者バートランド・ラッセル氏が、こんど英紙『オブザーバー』の紙上でフルシチョフ・ソ連首相とダレス米国務長官に加えた批判は、極めて鋭いものだった。二人とも、交渉で'最も小さな譲歩'をすることによって世を救おうともしないで、人類を大量死に導こうとしているかにみえる、というのだ。
 核実験の探知問題をとり上げた東西専門家会議が開かれているし、奇襲防止の専門家会議もやろうという申し入れが行われている現在、ちょっと酷な感じもするが、ラッセル氏のいうのは、それよりもっと根本的な考え方の問題である。フルシチョフ、ダレス両氏とも、核戦争の場合、いずれも自国が勝てると想像しているらしいというのである。
 かつてビキニの核実験について、もしある人が一人の人間に対し故意にガンを発生させるとか、あるいは精神薄弱児を生ませたとすれば、鬼だと言われようが、5万人のガン患者と無数の精神薄弱児の原因をつくっても逆に愛国者と呼ばれるのだと叫んだラッセル氏。また氏は、ソ連で人工衛星が打ち上げられた時も、最も重要な問題は「宇宙旅行は可能か」というようなことではなく、人類の住み家である地球をどうして守るかということだと、微動もせずにものの本質を見失わなかった。
 ラッセル氏は、こんどの一文でも、イギリス政府に水爆を放棄せよと呼びかけている。そして米ソにも核兵器を捨てさせる道徳的な主導権をにぎれというのだ。これを核実験の停止と並行してやらせ、大戦争発生の危険を最小限にくい止めながら、世界の国々はこうした戦争を終局的に抑える長期的な措置をとれというのである。つまり、国連などの機関が、戦争と平和に関するあらゆる問題について世界連邦政府の機能を徐々に持つようにならねばならない --これがラッセル論文の結論である。
 ラッセル論文は、フルシチョフ、ダレス両氏に対する警告だけで終わるものではない。平和以外に手のない日本にとって真剣に考えさせるものを持っている。