「様相 modality」(三浦俊彦)
『記号学大事典』(柏書房,2002年5月)所収
 命題が真であったり偽であったりするさまざまな仕方のこと。「日本の首都は東京である」が真なのは、必然的か、偶然的か。必然的に真とは、偽であることが不可能ということであり、偶然的に真とは、偽であることも可能だったということである。通常は「必然」と「可能」を基本的な様相として設定し、命題Pが真であることが必然である、可能であるというのを、それぞれ□P,◇Pと書く。
 必然と可能の間には、□Pは「(◇(Pでない))でない」と同義、◇Pは「(□(Pでない))でない」と同義という対称的な関係がある。ここから、形式的にエレガントな様相論理学の体系が展開できる。「偶然」ももちろん様相であり、「Pは偶然に真」は「Pかつ◇(Pでない)」と同義である。
 雨が降っていることを観察するだけでは、雨降りの真偽はわかっても様相の判別はできない。したがって様相の難しさは、真なる命題を必然的・偶然的に、偽なる命題を可能・不可能に分ける根拠は何か、ということだ。通常は、論理的真は必然的に真、論理的矛盾は真なることが不可能、その他の経験的命題は真偽どちらであることも可能、と分類される。「富士山が宙返りした」のような常識では不可能と考えられる事柄も、論理的矛盾でないため、可能的に真なのである。
 以上のような狭義の様相を拡張する仕方が三つある。第一に、論理矛盾以外は全て可能とする「論理様相」以外に、物理法則に反した現象は不可能とする物理様相、人間としてとりえない行動は不可能とする心理様相などが便宜的に設定されることがある。第二に、必然、可能など真偽の様態に関わる「真理様相」以外に、「〜は義務である」「〜は知られている」「〜は未来に成立する」といった演算子を扱う義務様相、認識様相、時制様相なども体系化されている。第三に、命題全体の真偽の様態である「言表様相」に加え、人や物がある性質を「必然的に持つ」とか「持つことが可能」というふうに、個体と性質(主語と述語)との結びつき方を示す「事象様相」も研究されている。

 参考文献: 内田種臣『様相の論理』早稲田大学出版部 1978年
       G.E.ヒューズ、M.J.クレスウェル『様相論理入門』恒星社厚生閣 1981年