三浦俊彦のページ


読書アンケート

★「単行本・文庫本ベスト3+私の2000年問題」
 『リテレール別冊』n.13(1999年12月刊)所収

単行本
・高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版)
・黒田亘、野本和幸編『フレーゲ著作集』(勁草書房)
・マイケル・パトリック『名画にしのびこんだ猫』(柳瀬尚紀訳、河出書房新社)

文庫本
・ニールス・ボーア『ニールス・ボーア論文集1』(岩波文庫)
・大内延介『将棋の来た道』(小学館文庫)
・江戸川乱歩『探偵小説の「謎」』(新版)(現代教養文庫)



 なんといっても『バトル・ロワイアル』が面白かった。
 というか、このテの小説は前から書きたいと思っていたので、先にやられてしまってまことに悔しい。これだけ面白く書かれたのだから仕方がないという感じでもあるが。
 ミステリーでもないしホラーでもない、あえていえばSFということになるのだろうか。読み始めてしばらくの間、六十頁くらいまでは、「なんだよこれ」という感じだった。文章はうまくないし、まっすぐな説明調で語りが洗練されてないし、しろうとだな、という印象。しかし、いつのまにか引き込まれてしまった。設定があまりにもよいのである。密室殺人事件を拡大して裏返したような、倒叙推理冒険小説といった趣もある。殺人ゲームのルールも考え抜かれている。なんといっても四十人がばたばた死んでゆくので迫力がある。武器の種類や殺し方がやや単調なのが気になったが、人物は男女それぞれあらゆる個性が一通り揃えられていて、ゲームへの対応も考えられる基本的な姿勢を全部網羅している。生徒名のあとに、序盤でいちいち「男子十一番」とか「女子十三番」とか機械的に出席番号が振ってあるナンセンスさも非人間的状況の恐怖をじわじわかもし出していてイイ。静的な恐怖と動的な凄惨さが相乗作用で高まってゆく。よくもまあ、スゲエ、スゲエゾスゲエゾ、と夜中に読み始めて翌夕方までに二段組666頁を読み終えてしまった。『リング』『らせん』を一晩で読んだとき以来の興奮だ。
 しかし、再び苦情に戻るが、語りの基本的枠組みに疑問を持った。とくに、誰が生き残るかがはじめから簡単に推測できてしまう書き方になっているのはいただけない。どうやって政府を出し抜くのか、という謎解き興味は最後まで持続するが、誰が生き残るのか、という点も不明のままサスペンスになっていたら、もっと高度な「ミステリー」になっただろうに。惜しいと思った。この線で、第二作を早く読みたい。

 ★私の2000年問題

 2000年中に、書き上げなければならない小説がある。
 何年も前から書下ろしを約束していた小説だ。そのテーマが、いかにも「世紀末」の臭気に満ちた分野であると判断されたため、担当編集者と「20世紀中に絶対出しましょう」と頷きあっている小説なのだ。
 しかし、難しい。
 いや、もうだいぶ書いた。断片が三百枚分くらいたまっている。しかし、まとまらない。書くことがありすぎて、多方向に広がりすぎて、登場人物が多くなりすぎて、筋が通っていかないのだ。思い入れが激しすぎるので、書きながらうずうず勃起してしまい、いかん、客観的に、アート的にと消してはまた書き直しの連続でちっとも進まないのである。
 何をテーマとした小説だろうか? それはまだ秘密にしておくが、「可能世界」「健康食品」「環境音楽」と四文字熟語のマニア本を三冊出版できた今、この小説を出すことで私のマニア四部作は「第一期完結」をみることになる。四部作第二期を2001年から新たに開始するためにも、ぜひとも2000年のうちにこれを完成させねばならないのであるが……。
 書けなかったら?
 まあ、「世紀末」なんて人為的な分節に過ぎませんよ、自然的根拠はありませんよ、いいものが出来るまでじっくり待ってください」……なんて悠長なことは言いたくないな。早く世に問いたい。早く僕自身が、読みたい。