職場におけるジェンダーチェック−なぜ女性の管理職が少ないか−
  (平成10年度国立学校等幹部職員研修<課長級>レポート)
 今回の研修の職場別討議の演習テーマ(自由討議)の一つとして、「職場におけ
るジェンダー・チェック」(具体的な議論としては、なぜ女性の管理職が少ないか)
をとりあげた。そこで、過去のこれまでの職場での経験も参考にして、この問題に
ついて簡単なまとめを行い、レポートとしたい。

1.講師の意見

 今回の課長級研修の参加者170名中女性はたった2名だけであり、現在課長と
して国立機関で働いている女性は、ほとんど独身とのことであった。
 亀田講師は講義の中で次のように主張されていた。

   公式の場では、男女による性差別はないとか、機会均等である、とよく言わ
  れるが、実際はやはりジェンダー(=社会的・文化的につくられた性別)によ
  る差別があるといわざるをえない。今回の研修参加者中女性はたった2名であ
  るという現実からもわかるように、女性は「参加すれども参画せず」というの
  が実状である。女性もいろいろな「決定の場」に、男性同様に積極的に関与す
  る「男女共同参画社会」を実現するためには、国、地方、職場、家庭その他、
  いろいろなレベルにおいて手を打つ必要があるが、そのためにも、職場におけ
  るジェンダーチェック(自己点検)によってどこに問題の所在があるか、あき
  らかにする必要がある。
    
   比較的差別がなく機会均等であるはずの公務員社会においても、男性の潜在
  的な意識のなかに差別の種がひそんでいるために、結果的に男性中心社会にな
  っている。その実体を把握するためには、ジェンダー・チェックが有効である。
  
   世間では、生物学的・生理的な性差別・区別についてよく問題にするが、ジ
  ェンダーによる差別については、それほどで問題にされていない。しかし、知
  らず知らずのうちに、女性はこうあるべきだ(もちろん、男性はこうあるべき
  だという男性観押し付けの問題もある。)という、(社会的・文化的な)女性
  観が空気のごとく当然なこととして社会一般に受け入れられているのは、大き
  な問題である。
   国立学校等においても女性の管理職が少ないのは、ジェンダーによる差別の
  結果という側面が大きいと思われる。
  
2.班別討議での意見
  
 我々図書系課長のグループ討議では、なぜ女性の管理職が少ないかという問題に
ついて、以下のような意見がだされた。
  
  単身赴任の問題
  課長に昇任すると引っ越しの必要が生じることが多い。通常、自宅からの通勤
  が困難となり、家族全員が引っ越しをするか単身赴任をすることになる。日本に
 おいては、結婚率が高く、課長登用の対象年齢にあっては、結婚しているものが
 多い。女性が単身赴任することは、子供がない場合でも心理的な抵抗が大きく、
  課長登用応募をあきらめる大きな要因になっているのではないか。
  
 男性優先の考え方
  なにも課長になる段階で初めて女性に対する不利益が発生するわけでなく、係長、
 専門員、補佐等それぞれの段階で、男性優先の原理が働く結果、上にいけばいくほ
 ど女性の昇進が困難となるのだろう。
  
 世話になった部下への恩返し
  同じ能力であれば、結果的に男性が優先されているのではないか。急ぎの仕事が
 あって、夜遅くまで残業をしてもらわないといけない場合、男性ならたのみやすい
 が女性はたのみにくいという意識が男性側にはけっこうあるのではないか。そのた
 め、たのみやすい特定の部下の男性に仕事の加重がかかることとなる。その結果、
 協力してくれた男性の部下を昇任においても優先させるということが多くなるので
 はないか。
  
 仕事に対する責任感
  もちろん男性以上に仕事をしっかりやる女性は少なからずいるが、男女を比較し
 た場合、やはり仕事に対する責任感は男性の方が強いのではないだろうか。したが
 って、男性の方が管理者に向いている者が相対的に多いのではないか、と考えてい
 る男性が少なくないのではないか。
   
3.個人的意見
  
●日本経済の2重構造
  日本経済は二重構造をもっているとよくいわれる。大企業と中小企業との関係
 にもっともよくあらわれている。景気の良いときは、大企業からの下請けの仕事も
 増え、中小企業も潤うが、不況になると大企業は中小企業への注文を控え、その
 ために倒産する中小企業が多くなる。大企業は安泰のままである。同じような構
 造が男女の雇用のあり方にも存在しているのではないか。
  
  日本の失業率はかなり低いことで有名である。しかし、それは主婦層をどうとら
 えるかによって大きく変わってくる。日本にあっては、子供の教育のためには女性
(母親)は家庭にいたほうがよいと考えている男女が少なくない、結果として専業主
 婦が多くなるが、これらの女性たちは当然のことながら失業者とは見なされない。
 しかしこれらの主婦層の多くがパートではなく、正社員として働きたい(共働きを
 したい)と思うようになったらどうであろうか。多くの主婦層を受け入れるだけの
 体制もないため、そのような事態になれば、日本の失業率は一挙に上昇するだろう。
  日本においては、男女雇用においても二重構造があり、景気が良くなれば家庭の
 主婦層をはじめ、フリーターその他を大量に採用して労働力を確保するが、不景気
 になればそれらの人たちを解雇する、あるいは採用を控える、ということになる。
 家庭の主婦のパートであれば、失業の問題をおこさずに解雇でき、問題が顕在化し
 ない。
  すなわち、日本社会全体が、女性労働のかなりな部分をそのようにみているとい
 えるのではないだろうか。

●日本人の労働観の問題
  ワークホリック(仕事をしていないと安心しないという脅迫観念)にかかってい
 る日本人が多いことは世界的に知られている。しかし、エリートといわれる人々は
 どこの国でもワークホリック気味であり、長時間労働をしている。 日本と外国と
 違うのは、日本においては、エリートといえない人でもワークホリック気味の人が
 多いという事実である。 
  であるから、日常の仕事においても、必要以上に超過勤務が常態化しがちとなる。
 もちろん必要があって残業をするわけであるが、どれだけ効率的に仕事しているか
 が問題である。いつどんな仕事が飛び込んでくるかわからない一部のポストや業務
 は別として、通常時間内に効率的に仕事を処理していれば、毎日残業をする必要は
 必ずしもないだろう。
  仕事の内容は別として、長い時間熱心に仕事をしている人間はえらいという労働
 観がまだ日本人には残っているようであり、女性の場合の方が男性より相対的にそ
 う思わない人間が多いのではないか。
  結果として、必ずしも能率的ではないにもかかわらず、夜遅くまで仕事をしてい
 る男性の方が、仕事に熱心であるということで、昇任の場合にも有利に働くことが
 あるのではないだろうか。
  
 まとめ
  
 ジェンダーの考え方はかなりの分野に適用できる考え方であり、これは何も女性学
研究者の専売特許の考え方ではなく、欧米ではかなり前からその重要性が指摘されて
いるものである。
 社会的弱者には障害者をはじめとして、少数民族、その他いろいろなグループがあ
るが、日本においては、強い女性はたくさんいるにしても、女性を全体として見たば
あい、現在のところまだ、社会的弱者の中に女性を含めることは間違っていないだろ
うと思われる。 
  
 日本社会においては、たとえば国立学校における課長登用においても、同等の能力
があれば女性を優先するという過渡的な処置を、恣意的にしばらくはとる必要がある
と思われる。