高田熱美『ラッセル教育思想研究』への後記
* 出典:高田熱美(著)『ラッセル教育思想研究』(創言社=福岡市,1983.4月刊 ii,288pp. 21cm.)九州大学教育学部での卒業論文に、「バートランド・ラッセルの教育思想」を手がけて以来、既に20年の歳月を経た。当時、私は、英国の経験哲学よりも、むしろ大陸の実存哲学や人間学に関心を寄せていた。そのためか、ラッセル研究を手がけてはみたものの、その思想には親しみにくかったし、ラッセルの明晰な文章にもかかわらず、その内容をトータルに把握することは易しくはなかった。これは、他のラッセル研究者にも同じであったのだろうか。教育に関しては、外国と本邦いずれのラッセル研究にも、その内容を全体からとらえ、深く堀り下げたものに出会ったことがなかった。しかし、これがために、却って、ラッセル研究を自分なりに納得のできるものにして、世に問わねば、と心がけてはきた。ただ、ラッセルだけではなく、アダム・スミスなどから始めて英国の教育思想全体を解きほぐしたいと考えていたので、ラッセル研究をまとめ上げるのに、このような永い時を重ねた。
想えば、私は、研究の過程で多くの人びとの温かい思いやりを被っている。懐かしい先生がた、忘れることのできない先輩、親しい友だち、また、私が所属する九州大学医療技術短期大学部(当時)の日夜研究と教育に努める人たち。わけても、教育哲学の恩師、活水女子大学学長石井次郎先生には、どれ程の言葉を以ても、感謝の意を表し尽くすことができない。先生は、私をして愛知への道を指し示して下さった、学問と人生の師である。
『ラッセル教育思想研究』は、こうした、美しく人間らしい方がたの助けによって上梓される。とはいえ、無論、この研究は私の責任によるものであり、是非、多くの読者の忌憚ない批評をたまわりたいと思う。
最後になったが、創言社の中川信介氏は、図書の出版を文化事業として遂行している、数少ない出版人の一人である。この若い編集者の、熱意のこもった呼びかけがなかったとすれば、この研究の発刊は、あと数年を要したかもしれない。ここに厚くお礼を申し上げる。
1982年12月25五日 研究室にて 高田熱美