「軍事に傾く科学に警告、研究・開発に歯止めを- 科学者京都会議が声明」
* 出典:『朝日新聞』1984年6月24日第1面* パグウォッシュ会議・科学者京都会議関連文献リスト(明治学院大学図書館所蔵図書)
核廃絶と平和を訴えるため、自然科学、人文科学など、幅広い分野の知識人が集まる「第5回科学者京都会議」が(1984年6月)二十三日、東京・学士会館(右写真)で「軍事技術の研究・開発に歯止めをかけるべきだ」との、約二千字の声明を発表した。声明文には、豊田利幸明治学院大学教授(注:名古屋大学名誉教授)はじめ、哲学者の谷川徹三(注:日本バートランド・ラッセル協会会長)氏ら、討議に参加した三十一人全員が署名したが、参加者以外にも広く署名を求めていく。
会議は二十二日から二日間開かれ、国際的視野での軍事技術開発の現状、日本における軍事技術開発の現状の二つの報告をもとに討論した。
先端技術を駆使した巡航ミサイル・トマホークの配備問題をはじめ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の宇宙空間での迎撃兵器開発などを背景に、「軍事」に貢献する「科学・技術」を科学者の身近な問題としてとらえ直すことを提言。わが国においても「軍産学複合体」が形成される危険性を指摘しながら、'科学者'が良心にのみ従って行動できる自由の保障が必要なことを訴えた。
とりわけ、憲法をはじめ原子力基本法や宇宙開発事業団法など、科学・技術を「平和目的に限り」利用するという理念を持ちながら、対米武器技術供与が認められ、わが国の科学者、技術者が公然と軍事研究、開発に取り込まれる恐れの出てきた現状などの危険性が討議された。
科学者京都会議は、「人類全体の破滅を避けるという目標は他のいかなる目標にも優先しなければならない」というラッセル=アインシュタイン宣言の精神を受け、(故)湯川秀樹、(故)朝永振一郎、(故)坂田昌一の三人が主唱して開かれた。世界的規模で開かれる「パグウォッシュ会議」の日本会議というべきもので、一九六二年の第一回会議で「平和憲法」を取り上げて以来、日本への核持ち込み(第二回、一九六三年)、抑止均衡論への批判(第三回、一九六六年)、抑止論脱却と軍縮(第四回、一九八一年)などを主なテーマに声明を発表してきた。
有山兼孝(物理学) | 飯島宗一(医学) | 石田雄(政治学) | 江口朴郎(歴史学) | 大北威(医学) |
大西仁(国際政治学) | 岡倉古志郎(国際政治学) | 小川岩雄(物理学) | 小川修三(物理学) | 柏村昌平(物理学) |
小沼通二(物理学) | 坂本義和(政治学) | 佐久間澄(物理学) | 沢田昭二(物理学) | 関寛治(国際政治学) |
高木修二(物理学) | 高橋進(国際政治学) | 田中正(物理学) | 谷川徹三(哲学) | 戸田盛和(物理学) |
豊田利幸(物理学) | 中野好夫(英文学) | 中村研一(国際政治学) | 福田歓一(政治学) | 藤田久一(国際法) |
伏見康治(物理学) | 牧二郎(物理学) | 松本賢一(物理学) | 宮崎義一(経済学) | 安野愈(物理学) |
山田英二(物理学) | . | . | . | . |
[声明要旨] 世界の科学者・技術者の四分の一が軍事研究に従事
第5回科学者京都会議の声明要旨は次のとおり
核兵器体系の開発競争は、ますます激しく、東アジア・太平洋地域が核戦場になる危険が急速に高まっている。わが国の内部の軍事化の動きも活発化している。
軍事競争を支えてきた研究開発に従事してきたのは、科学・技術の素養を身につけ訓練を受けた科学者および技術者で、その数は全世界の科学者、技術者の四分の一に達しているといわれる。
私たちは、第二次世界大戦中に科学者がとった態度についての反省からも、日本国憲法の下で、真理の探究と人々の幸せに役立つ技術の開発とをめざしてきた。しかし、最近、内外の軍事化の顕著な情勢の下で、日本国民の平和への意志を無視するような動きがあらわれ、わが国の科学者、技術者も軍事的研究開発に公然と取り込まれる恐れが出てきた。
私たちは、核時代の科学者として、世界的な視野から社会的責任を自覚、日本人として、平和への特別の任務を考える。それはわが国における軍事的研究開発の本格化を未然に抑え、科学と技術をすべての人の知的発達と幸せに役立たせる道を追求することである。
その出発点として、私たちは、科学が平和と人類の福祉にのみ貢献すべきものであることを確認し、そのために科学者本来の相互信頼の強化と、その基礎となる研究成果の公開制の拡大に努力したいと思う。さらに、ユネスコ勧告の趣旨に沿って、「最後の手段として良心に従って身をひき」得る条件の保障を国に求めるものである。
今、軍事的研究開発そのものを解消し、これに向けられていた人的、物的資源を平和的研究開発に振り向けるべきである。この困難な事業に取り組むために広く各方面の人々の理解と協力を訴える。