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ラッセル関係書籍の検索 ラッセルと20世紀の名文に学ぶ-英文味読の真相39 [佐藤ヒロシ]

N.チョムスキー「9月11日について」

* 出典:『朝日新聞』2001年12月21日朝刊第8面+夕刊第1面


(2001年)「9月11日」のテロ攻撃は、アメリカ政治の結果なのかと問われ、チョムスキー氏はこう答える。
「いかなる直接的な意味においても、あの攻撃が米国政治の'結果'ではない。しかし間接的には、むろん、あれは結果である。」(『9.11』(山崎淳訳))
 この著名な言語学者は、今朝の本紙でも物事への「独特な」論理適用を見せた。それは厳格なとも、明快なとも、単純なとも、とれる。部屋にはB.ラッセルの写真が掲げられているという。(松下注:右の写真と思われます。)
* Noam Chomsky(1928~ )略歴
 1955年からマサチューセッツ工科大学(MIT)で教える。「生成文法理論」を提唱した言語学の大家ながら、反戦平和活動家としても知られる。『文法の構造』『お国のために』『知識人と国家』など、幅広い分野で著書多数。同時多発テロを扱った近著『9.11』は、日本語版(文芸春秋社刊)も出ている。
* 松下注:チョムスキーの Problems of Knowledge and Freedom(川本茂雄訳『知識と自由』(番町書房、1975年)は、1971年、チョムスキーがケンブリッジ大学トリニティ・コレッジで行った第1回ラッセル記念講義を単行本にしたもの。)

言語学者チョムスキー氏、「アフガン」を語る

 言語学者ノーム・チョムスキー(米マサチューセッツ工科大学教授)は、アフガニスタンへの米英軍の武力行使に反対する数少ない米知識人の1人である。1960年代にベトナム戦争反対の声を上げて以来、その姿勢は揺るがない。しかし、「左派」と目される同氏に、米言論界の主流は冷淡だ。インド、パキスタンを訪ねて帰国したばかりの同氏に、ボストンの大学研究室で考えを聞いた。(ニューヨーク支局長・五十嵐浩司氏)

爆撃で罪のない人々を殺していいか、ノーだ 米国が反対すれば、国連は何も守れない!

 現地を見て、考えが変わりましたか

 「いや。アフガンにいるだれかに対米テロを行った疑いがあれば、爆撃して罪もない人を殺してよいか。当然、ノーだ。もし認められるなら、ニカラグアは(反政府ゲリラを後押しした)米国を、ロシアは(爆弾テロを行ったとみられる)チェチェンを、英軍はIRA(アイルランド共和軍)の資金源があるとされるボストンを爆撃できることになる。」

 米英軍が勝利しつつあります。オサマ・ビン・ラデイン氏を排除すれば、テロの脅威は減ると思いますか?

 「米国が勝つのは当たり前、話す価値もない。世界史上例のない圧倒的な軍が、中世のような敵と戦っているのだから。米国がビン・ラデインの関与を疑うなら、まず証拠を集め、適切な機関に提出し、犯罪者を裁きにかけるよう、国際社会に働きかける。こうした手順は十分可能だったはずだ。タリバーンは引き渡しに証拠の提示を求めた。実にまっとうなこと。それをけって攻撃するのはテロ国家のすることだ」
 「国連安保理決議(1368)が、米国の自衛権を認めたものかどうか、学者や法律家が議論している。意味のないことだ。明確な承認が欲しければ米国はそうする。自衛権はだれかに認めてもらう筋合いのものではないと考えただけのこと。

の画像  '大国は望むようにやり、小国は課せられたものに耐える'これが国際政治の現実だ(右イラスト出典:B. Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953.)

 国連は米国を抑える力にはなれない?

「米国が反対すれば、国連は何も守ることができない。先週、安保理がパレスチナ問題で国際監視団派遣の決議を通そうとして、米国が拒否権を使ったのがよい例だ」

 日本に比べ、米国では武力行使に反対の声がずいぶんと小さい

 (日本が中国を侵略した)1930年代に、日本でどれだけの人が反対の声を上げたかね。実質ゼロだろう。」
 「いま米国で『テロヘの軍事力行使を認めますか』と聞けば、ほとんどがイエスだろう。私も多分イエス。だが、『罪の ない人々が飢えて死ぬことになっても、アフガン過激派の殺し屋たちへの武力行使を認めますか』と聞けば、人々はノーという。人々に武力行使の実体を知らせるのがメディアの仕事だ。」

 アフガンに関して左派といわれる知識人は旗色が悪いようです

 「左派、右派という問題ではない。人間の品位の問題。左派知識人の歴史を見れば、自国の暴力を支持する例が多いではないか。第一次世界大戦のときがそう。ベトナム戦争時もリベラル知識人は支持していたし、反対するとしても、自国の失敗や費用の問題からだった。」

 今、国際社会はアフガンとその国民のために何をすべきでしょう?

 「アフガンの破壊に責任があるのは、侵攻したロシア(当時はソ連)と米国。まずこの2カ国が補償金を払うべきだ。対ロシアで(ロシアに対抗するために)北アフリカやサウジアラビアからイスラム過激派の殺しやたちを集めたのは米国だ。当面、両国は緊急食糧援助を急ぐ責務がある。」



米「左派」薄れる存在感、世論受け、現場自己規制

 同時多発テロとアフガン攻撃を巡る米国での言論の中で、「左派」と呼ばれる人々の存在感は薄い。欧州や日本に多い「テロは非難しつつ、米国のごう慢さも戒める」論調さえ、テロによる破壊のすさまじさの前に「反米的」と見なされた。軍事行動が比較的順調なことも、左派の発言の重みを減じている。

 「スーザン・ソンタグ(作家)からチョムスキー、エドワード・サイード(コロンビア大教授)まで、「9.11」に対する左派知識人の最初の反応は、'真の犯罪者は米国だ' だった。」
   英国の保守的なサンデー・タイムズ紙は10月、批判的にこうひとくくりにしている。

 最も注目を浴びたのは、ソンダグ氏。事件後まもなく、「これは文明や自由や人間性に対する攻撃ではない。自称「超大国」への攻撃だ」と断じ、死亡したハイジャック犯より、「反撃されない高い空から攻撃する者(米兵)の方が卑劣」と書いて反発を招いた。
 もっともこの3人ほどの「超」大物は、どう非難されようと地位が揺るがない
 深刻なのは、現場レベル。チョムスキー氏の主張に対しては「9.11を正当化するもの」(編集者クリストファー・ヒチェンズ氏)と、左派内部からも強い反発がでた。
 代表的な左派雑誌「ネーション」は、「国民からかけ離れてはならない」と限定的な武力行使を支持。編集者マーク・クーパー氏は、「民主的で成熟した左派」(ロサンゼルス・タイムズ紙)という表現でその立場を説明した。
 リベラルと目されるコロンビア大学のアラン・ブリンクリー教授は、左派の停滞は「メディアの無視が一因」としつつも、「この間の米政府の政策を明確に批判できなかったため」と指摘。代案が示せないまま、圧倒的な世論の前に自己規制していると見る。
 ただ、左派の対局にある宗教右派も、テロを機に中絶や同性愛の罪をあおろうとして反発を買い、沈黙中だ。米国の世論は、「テロ撲滅、武力行使支持!」へと集約されている状態といえる。