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『拝啓バートランド・ラッセル様』(Dear Bertrand Russell) への編者はしがき

* 出典:Dear Bertrand Russell(朝日出版社、1971年9月刊。100pp./牧野力・日高一輝(注)

編者はしがき(1971年6月31日)

 この教科書の原点である Dear Bertrand Russell の最後の Tailpiece(追伸)(May 1968、編集者宛のラッセルの手紙)に次のようなラッセル自身の言葉がある。
 'It seems to me that your choice of letters is admiab1e and gives a very just picture of my opinions at various dates ...' という  この 'a very just picture of my opinions at varios dates ' という評言は、ラッセルのものの観方や考え方を具体的に知るのに,本書が好適であることを示している。これが先ず指摘したい点である。
 '... I also think your editing and notes and the forewords to each section are excellent.'(ditto)
 資料としての手紙の整理、その中から適切なものを選び出した選択の適切さ、そしてそのそれぞれの section 別に付した解説――_それらにたいしてラッセル自身が下したこのような評言は,いかに本書の編者に主観的偏向がないかを物語っている。
 書簡集は、自己を語り示す点で自叙伝と似た面があるが,この書簡集は質疑と応答の両面を示してくれている点で自伝をしのぐ次元のあることが感得される。
 地球上のあちらこちらから、老若男女の別なく、いろいろの問題について呼びかけや問いかけがあり、その一つ一つにたいしてラッセルが応答している。その問いかけと答えとの間には、著書や自伝を読む時のあの一方通行的な平板な感じとちがうものがある。その問いかけは具体的であり、2人の間の人間的な魂のふれあいもあり,その中に懐疑と理解・発見と自覚のあることを知る。そしてそれぞれの手紙で交わされたことばは、時には読者にとって自分の心の片隅でまだはっきりしたことばにこそなっていないが,同じ問いかけの内容がもられていることもあろう。また、自らはっきりと問題をみつめる契機ともなるものもあろう。ともかくそうした対話の中に,読者自身も具体的にかかわりあいをもち得る場がある。ここにも本書が読まれてよい意義があるとおもう。
 尚このテキストの編注に当ってはイギリス版を底本とした(アメリカ版には省略がある)。
 問題点に関心をよせられる方のための資料として,その問題点を詳細に述べているラッセル自身の著書名を巻末に付記した。