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バートランド・ラッセル(作)「コルシカにおけるX嬢の試練」(The Corsican Ordeal of Miss X)

* 出典:バートランド・ラッセル(作),内山敏訳『ラッセル短篇集』(中央公論社、1954年4月刊。207pp.)
* 原著:Satan in the Suburbs, 1953, by Bertrand Russell
* 内山敏氏(1909~?)は、日本バートランド・ラッセル協会設立発起人の一人
「郊外(町)の悪魔」目次

 私は最近、親友のN博士を訪問する機会があったが、デンマークにおける前ケルト時代の装飾美術に関する博士の論文は、議論する必要があると感じた若干の問題点を提起していた。
 博士を訪ねると、彼は書斎にいたが、いつもの温厚かつ今なお微かに知性を感じさせる表情のなかに、何かしら奇妙におどおどしたかげりがあった。椅子の肘木においてあったに違いない書物や読みかけだったと思はれる書物が、床の上に散乱していた。本人は鼻の上にかけていると思っているらしい眼鏡は、デスクの上に放りだしてある。いつもなら口にくわえているパイプは、タバコ用火皿のなかでけむりをあげており、しかも博士は、それがあるべき場所にないことに、全然気付かないらしかった。おだやかで、いささか単純な博愛主義や、いつもの穏やかなまなざしは、消えていた。悩み、動揺し、困惑し、恐怖におそわれた表情が、彼の顔にはっきりと刻印されていた。
'おいおい!・・・。一体なにがあったんだ?' と私は聞いた。すると彼は答えた。
'ああ君か・・・。秘書のX嬢のことなんだが、これまでのところ、あのひとは、沈着冷静で、手際よく仕事をし、若いものの心をみだしがちな感情に動かされない女性だと、そう思っていたんだ。しかし、私は軽率にも、彼女が装飾美術に関する仕事を離れ、2週間の休暇をとることを認めたんだ。彼女の方はもっと軽率(無分別)にも、その2週間をコルシカ(島)で暮らすことにしたんだ。帰ってきた彼女を見た途端、彼女の身に何かがあったとわかったんだ。'

'コルシカで何をしてきたんですか?' と尋ねると彼女は、'ああ、それが全く!' と答えた。
(The Corsican Ordeal of Miss X の他の挿絵)

の画像 * この続きは、原書を購入して読まれるか、邦訳書をお読みください。(『ラッセル短篇集』は、早大ラッセル関係資料コーナー、国会図書館、都立中央図書館、東洋大、京大総合人間学部、神戸市立大学、琉球大学等で所蔵しています。また、Cambridge 大学図書館及び Oxford 大学図書館でもこの邦訳書を所蔵しています。)

... The spectacles which he imagined to be on his nose lay idle on his desk. .../ But in an ill-advised moment I allowed her to take a fortnight's holiday from her labours on decorative art, and she, in a still more ill-advised moment, chose to spend the fortnight in Corsica. ...