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バートランド・ラッセル(作)「郊外町の悪魔、又の名「恐怖製造所」(Satan in the suburbs, or horrors manufactured here)」冒頭 n.1

* 出典:バートランド・ラッセル(作),内山敏(訳)『ラッセル短篇集』(中央公論社、1954年4月刊、207pp.)
* 原著: Satan in the Suburbs, 1953
* 内山敏氏(ウチヤマ, ツトム:1909-1973)は、ラッセル協会設立発起人の一人

「郊外(町)の悪魔」目次

郊外町の悪魔、又の名「恐怖製造所」- 冒頭部分

 私はモートレイクに住み、毎日電車で通勤している。ある日の夕方、帰宅途中、毎日通りすぎる別荘風の家(villa)<>の門に、新しい真ちゅうの標札が出ているのを見つけた。驚いたことに、その標札には普通の医院の看板と異なり、次のように書いてあった。

 恐 怖 製 造 所
  施術者 Dr.マードック・マラコ
  

 この看板に好奇心をそそられた私は、家に帰ってから、マラコ博士に手紙を書き、施術(治療)を求めるかどうかを決められるよう、もう少し詳しい情報を教えてほしいと依頼した。受け取った返事には次のように書いてあった。
拝啓
 あなたがわが医院の標札について若干の説明をお望みになられるのは、全然驚くべきことではありません。すでにお気づきだと思いますが、近年わが国の大都市の近郊では、生活が干篇一律で退屈なことをなげく傾向があります。そのような感情を、識者の一部は、この千篇一律に悩むものにとっては何らかの冒険はたとえ若干の危険が伴っても今の退屈な生活よりは我慢できるだろう、といったように表現しています。
 まったく新奇な職業をあえて私が始めたのは、このようなニーズに応えるためです。患者様に、その生活を一変させるようなスリルと興奮を提供し得ると信じています。もっと詳しくお知りになりたい場合は、面談の上お話します。料金は一時間10ギニーです。
 この返事を読んで私は、マラコ博士は新種の博愛主義者であると推測し、10ギニー出してもっと詳しい情報を得るべきか、それとも、この金を何かほかの楽しみのためにとっておくべきか自問自答した。
 いづれとも決めかねているうちに、たまたまある月曜日の夕方、博士の家の門前を通りかかると、近くに住んでいるアーバークロンビー氏が青ざめた顔をし、とりみだした様子で、博士の家の玄関から出てくるのに出くわした。両眼は焦点がさだまっておらず、よろめいた足どりで、門のかけ金をぎこちなく回し、通りまで出てきたが、まるでどこか全然見知らぬ土地に迷いこんだような様子であった。
 「いったいあなたは、・・・、どうかなさったのですか?」と私は大声で叫んだ。
(Satan in the Suburbs or Horrors Manufactured Here の他の挿絵)


* この続きは、原書を購入して読まれるか、邦訳書をお読みください。(『ラッセル短篇集』は、早大ラッセル関係資料コーナー、国会図書館、都立中央図書館、東洋大、京大総合人間学部、神戸市立大学、琉球大学等で所蔵しています。また、Cambridge 大学図書館及び Oxford 大学図書館でもこの邦訳書を所蔵しています。)
★「郊外町の悪魔、又の名、恐怖製造所」は『中央公論』v.68,n.9(1953年夏期臨時増刊号)p.169-206(内山敏訳)にも収録されています。


... You may have observed a recent tendency to deplore the humdrum uniformity of life in the suburbs of our great metropolis. The feeling has been expressed by some, whose opinion should carry weight, that adventure, and even a spice of danger, would make life more bearable for the victim of uniformity. ...