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バートランド・ラッセル(著),赤井米吉(訳)『原子時代に住みて
−変わり行く世界への新しい希望』
(理想社,1953年12月刊。287pp.)

(原著:New Hopes for a Changing World, 1951)

第1部第1章「現代の困惑」冒頭
Current Perplexities
 下記の文章は,昭和36年度の京都外国語大学の入試問題に出たそうです。
 現代の社会を広く蔽つている気分は,どうすることもできない困惑の感である。われわれは誰もが欲しはしない戦争の方向に自分たちが押し流されていることを感じている。その戦争は人類の大多数のものに大きな災禍をもたらすにちがいないことは,よくわかっているのであるが,われわれは蛇に狙われた兎のように,それを避ける方法を知らないので,ただその危険のせまってくるのをじっと眺めているだけである。われわれはより合って,原子爆弾,水素爆弾,都市の全滅,ロシアの難民,飢饉,虐殺(→蛮行?)などという恐ろしい話を語っている。ところでわれわれの理性は,このような予感にたいして身ぶるいしなければならないと教えるのであるが,われわれの中にはそれを喜ぶ気分もある。だからこの災禍を是非とも避けるようにしなければならないという固い決意をわれわれは持っていないのである。われわれの魂は深いところで正気なものと,狂いじみたものと2つに分裂している。無事平穏な時には,この狂いじみたものは昼間はすっかり眠っていて,夜だけ眼をさますのである。しかし今日のような時には,それが眼のさめている時までも侵して,あらゆる合理的な考え方が曇らされ,意志と離れてしまっている。現代の生活は2つの仮定をもってあぶない綱わたりをしているようなものである。――もし戦争がおこるならばかくかくの生活をするのがよいし,もし戦争が起こらなければかくかくの生活をするのがよいと。人類の大部分のものにとって,このような仮定的な生活をすることは耐えられぬ不安の感をいだかせるものである。だから実際には或る人々は前の仮定をとり,他の人々は後の仮定をとっている。ただしそれを確信しているわけではない。・・・
The present time is one in which the prevailing mood is a feeling of impotent perplexity. We see ourselves drifting towards a war that hardly anyone desires - a war that, as we all know, must bring disaster to the great majority of mankind. But like a rabbit fascinated by a snake we stare at the peril without knowing what to do to avert it. We tell each other horror stories of atom bombs and hydrogen bombs, of cities exterminated, of Russian hordes, of famine and ferocity everywhere. But although our reason tells us we ought to shudder at such a prospect, there is another part of us that enjoys it, and so we have no firm will to avert misfortune, and there is a deep division in our souls between the sane and the insane parts. In quiet times the insane parts can slumber throughout the day and wake only at night. But in times like ours they invade our waking time as well, and all rational thinking becomes pale and divorced from the will. Our lives become balanced on a sharp edge of hypothesis - if there is to be a war one way of life is reasonable ; if not, another. To the great majority of mankind such a hypothetical existence is intolerably uncomfortable, and in practice they adopt one hypothesis or the other, but without complete conviction. ...