バートランド・ラッセル『自由と組織』第1章 - 冒頭
* 出典:バートランド・ラッセル(著),大淵和夫・鶴見良行(共訳)『自由と組織』(みすず書房,1960年12月刊)* 原著: Freedom and Organization, 1934.
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理想を描き求めることは、苦悩と希望からうまれる。だから、不幸な時期に、その終りが目の前に近づいているとき、この傾向は一番強くなる。大規模の戦争が終わると、その理想目標を托するにたる擁護者(チャンピオン)として、人びとは勝利者の一人のうえにその希望をつなぐ。ナポレオンが没落したとき、民衆は歓呼して、ロシア皇帝アレクサンドル一世(一世1777-1825,在位:1801-1825)にこの役割りを期待し、彼もそれをすぐに受けいれた。「人間的魅力を競うという」倫理的覇権をめぐる競争では、実のところ、彼には大して手ごわい競争相手はいなかった、といわねばならない。それらは、君主では、オーストリアのフランツ帝(フランツ二世。はじめオーストリア大公(1792-1804)、のちオーストリア皇帝として、フランツ一世(1804-1835)。同時に神聖ローマ皇帝(1792-1806)としてフランツ二世)、プロイセンのフリードリッヒ・ウィルヘルム(フリードリッヒ・ウィルヘルム三世。プロイセン王在位、1797-1840)、イギリスの摂政王子(のちのジョージ四世(1762-1830)。父王ジョージ三世の発狂により、1811年摂政となる。父の没後即位在位1820-1830)、ルイ十八世(在位1814-1824)、政治家のうちでは、メッテルニヒ(Klemens Metternich:オーストリアの政治家、1773-1859)、カースルレー(Castlereagh,1769-1822。イギリスの政治家)、タレイラン(Talleyrand:1754-1838。フランスの政治家、外交官)がいた。 |
IDEALISM is the offspring of suffering and hope, and therefore reaches its maximum when a period of misfortune is nearing its vislble termination. At the end of a great war, men's hope fasten upon one among the victors as a possible champion of their idealistic aims. After the fall of Napoleon, this role was offered by popular acclamation to the Tsar Alexander, and was by him accepted with alacrity. It must be said that his competitors for ethical supremacy were not morally very formidable. They were, among sovereigns, the Emperor Francis of Austria, Frederick William of Prussia, the Prince Regent, and Louis XVIII; among statesmen, Metternich, Castlereagh, and Talleyrand. |