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[書評] 吉田夏彦「バートランド・ラッセル『哲学概説』(について)」

* 出典:『世界名著大事典』(平凡社)第4巻(1960年)pp.336.
* 原著:An Outline of Philosophy, 1927
* 本書は、ちくま学芸文庫の一冊として、ラッセル『現代哲学』という邦訳書名で出されています。
* 吉田夏彦(1928年7月27日 - ):哲学者,東京工業大学名誉教授。数学者・吉田洋一の子供



 ラッセル(Bertrand Russell, 1872~(1970))著。著者はイギリスの哲学者。よく知られているように,著者の哲学上の立場は,年代によってかなり大きく移り変わる。本書は,当時彼がとっていた,いわゆる「中立的一元論」(neutral monisum の立場から,哲学の諸問題を論じたものである。構成はかなり体系的であり,扱った問題の範囲も広く,かつ読者には,哲学上のしろうとを想定している。だから,一応,日本での「哲学概論」の概念にもあてはまる書物である。しかし,記述は,ときに冗長,ときにこみいりすぎ,そう読みやすい本ではないから,入門者に向いているとはいえまい。

 全体は4部に分かれる。第1部「外から見た人間」(Man from Without)は,外部の観察者の得るデータだけから構成される人間像を取り扱う。行動主義心理学の手法への同情が目立つ部分である。第2部「物理的世界」(The Physical World)は,当時の物理学の理論の成果をいくつか解説し,かつその哲学上の帰結を論ずる。物理的世界像がもつ知覚論への影響を,特に詳しく説いている。第3部「内から見た人問」(Man from Within)で著書は,行動主義心理学とたもとを分かち,自己観察を学問的手法として許すことにより,記億,知覚といった問題について,より進んだ解決を得ようとする。しかし,もとより,前2部での成果をふまえているので,古典的な,内観的人間像に対しては,随所できびしい批判を試みている。第4部「宇宙」(The Universe)は,近世哲学史の著書流の要約から始まり,真偽の問題,帰納法の問題などを取り扱い,中立的一元論の立場の解説などにも触れ,最後に,珍しく詠嘆的な,「宇宙における人間の地位」と題する3章で終わる。この章にはなお,哲学の機能についての著者の考え方がかなり詳しく述べられている