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バートランド・ラッセル「産業における権限委譲」

* 原著:What is democracy?, 1953 および、The story of colonization, 1956
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収


 政治上の権限委譲は'代議制'で実践され、産業上の権限委譲'産業民主制'で実践される。第二次大戦直後の英国労働党政府は、社会主義者の永年の夢である基幹産業の国有国営を始めた。だが、労働者達が昔から社会主義に託したほどの大きな期待は果されなかった。
 資本家の地位に国家官僚が坐り、労働者経営者との間の労働条件その他に関する衝突の可能性は、ほとんど昔と変らなかった。
(このような事態を打開するためには)大産業部門における対内問題には官僚は介入せずに、労働者自身が民主的に処理決定し、対外問題だけに政府が介入し、各産業部門間の調整に当るべきである。
 現在の国家は組織が甚だ厖大だから、民主国においてさえ、官史は市民との接触が非常に間接的で、実情にうとい。国営化された一大産業の労働者にとって、大組織の中での個人的創意工夫を発議する機会はないも同然となっている。
 現代世界の大きな危険の一つがここにある。上層部の組織管理は強化され、下部からと内部からの活力を吸収できず、そのために冷淡・無気力・厭世観へと進む。精力的で強い生活信条の持主には、必ず大なり小なりの職場があるはずで、そこに生き甲斐を求める。この希望は、職場で現在以上に産業上の権限委譲を生かしてこそ初めて可能となる。産業内部の民主化は、社会主義の生産増強体制にも貢献する。
 第一次大戦以前に、この産業民主主義思想は、フランスのサンジカリストと英国のギルド・ソシアリストによって、幾分違った形で提唱された。しかし、彼らは、ロシア革命に想像力をからめとられて、国家社会主義と官僚独裁主義によろめいて行った。彼らは、ソ連の官僚は革命前にロシア皇帝への反逆者であったのであればみんな善い人達だろうと、かなり愚かにも考えた。その結果、ロシアの専制主義だけでなく、かつて価値ありと彼らが考えた理論に向けて勇敢に闘った西欧左翼運動をも完全に失敗させてしまった。今こそ、ロシア革命以前に西欧の進歩的な人々が掲げた権限委譲の目標を復活再現させるべき時である。
Before the First World War this idea (= moch more devolution than exists at present) was advocated in somewhat different forms by syndicalists in France and by guild Socialists in England, but the Russian Revolution captured their imaginations and they went helter-skelter for State Socialism, and bureaucratic autocracy. They thought, rather foolishly, that if the bureaucrats were former rebels all would be well. The result was not only Russian autocracy, but also complete failure of movements of the Left the West to stand for things that they had formerly valued. It time revive the aims which progressive people set before them selves in the days before the Russian Revolution.
(イラストの出典:Bertrand Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1954.)