バートランド・ラッセル「アリストテレスにおける"知的戯言"」
* 原著:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』(要旨訳です。)
アリストテレスはその名声の割には不条理に満ちている。
Aristotle, in spite of his reputation, is full of absurdities.
冬の北風が吹く時に妊娠するとか、余り若くして結婚すると女の子が生れるとか、雌の血は雄の血より黒いとか、豚はハシカに罹りやすい動物だとか、不眠症の象の肩を塩、オリーブ油、湯でこするべきだとか、女は男より歯の数が少ないとか言って教えた。それでも大多数の哲学者が彼を知恵の見本に仕立てた。
He says that children should be conceived in the winter, when the wind is in the north, and that if people marry too young the children will be female. He tells us that the blood of females is blacker than that of males; that the pig is the only animal liable to measles; that an elephant suffering from insomnia should have its shoulders rubbed with salt, olive-oil, and warm water; that women have fewer teeth than men, and so on. Nevertheless, he is considered by the great majority of philosophers a paragon of wisdom.
アリストテレスは四種類の原因を設けた。今問題にするのは二つ、「動力因」と「究極困」である。前者は我々が単純に原因と呼ぶもので、後者は目的のことである。 人間的な事象が問題になる場合、人間の行為には目的があるから、究極因の説明で足りる。だが、生命のない自然が問題となる場合、科学的に発見できるのは動力因だけだとわかっている。彼は現象を究極因だけで説明しようと試み、常に悪質の科学を助けた。自然現象にもーつの目的があるのかも知れないが、もしあっても、まだ全く未発見のままであり、また、既知の科学的法則はすべてただ動力因に関わりがあるだけである。この点でアリストテレスは世界を誤って導いたのに、ガリレオの時代まで十分修正されなかった。
Source: Unpopular Essays, 1950, chap. 7: An Outline of Intellectual Rubbish.
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