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バートランド・ラッセル「社会システム良否の判定(判断)基準」

* 原著:The Problem of China, 1922, chap.1.
* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』より



 ある社会に良否の判断を下す基準は、次の3点にある。
  1. その社会の中に善と悪とがどれほど多いか。
  2. その社会が他の社会に善悪いずれの影響力を与えるか(対比)
  3. その社会がもつ善が他の社会に与える悪に依存していないか。
 西欧の繁栄は、広く弱小国を圧迫・搾取してきた結果である。一九二〇年以前の中国国民は(松下注:本書 The Problem of China の出版は、1922年)、他国民に危害を与えるほど強力ではなく、自国民の働きと工夫とで生活していたに過ぎない。西欧人は中国に来て初めて、西欧と違う価値基準に無意識に従って築いた中国人社会に接して、西欧の工業文明・商業文明を見直す機会に出会った。西欧的影響下にある中国人を除けば、西欧流の進歩と能率とは中国人には無縁であった。西欧の侵入以前の中国は、全体的に見て、平和な生存の喜びに溢れた生活を確保していた。
 人間が一定の価値判断の基準を自覚せずに、自国と正反対の様相をもつ異文化の国とを正当に比較するのは困難である。
 気がつく範囲では、親しみの少ない方の文明を過小評価しやすい。見馴れた悪よりも、目新しい悪に常に強い印象を受け、誤解しやすいものである。
(写真:理想社から出版された The Problem of China の邦訳書=牧野力訳の表紙画像)