バートランド・ラッセル「資源保護」
* 原著:Authority and the Individual, 1949, chap. 5 及び New Hopes for a Changing World, 1951, pt.1, chap. 4.* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収
世界の天然資源保護は、国家の行うべき仕事の一つで、極めて重要である。
科学理論家は自然を理解しようとして、法則と技術を生み、科学技術者は技術により自然を変えようとする。自然が単純なものを複雑なものにする過程をたどるのに対し、科学工業は逆に、複雑な原料を単純なものにする過程をとる。そして、自然的過程をたどる多くのものは、元に還せない。
科学工業が依存するエネルギー資源は使われる分だけ消耗するから、工業の発達は消耗の増大となる。すでに石炭は石油に代った。一つの工業は他の工業を崩壊させる。石炭についていえることは他の資源についても同様である。毎日毎日数平方マイルの森林が新聞紙に変るが、新聞紙を森林に変える方法は知られていない。
近代工業は一種の掠奪作業である。
食料の原料である土地を考えると、問題は一層重大である。昔、肥沃であった土地が今や不毛の岩石、砂漠と化し、昔、賑やかだった町が土砂の下に埋没して史蹟となって発見されている。この作用は今も増大している。
科学知識・技術は人間を酔わせる飲物のようで、人類はこれを控えるのがむずかしい。原子の秘密を知った知識・技術は、悪用されると人類の全滅へとつながりうる。資源が人類の濫用、濫費で枯渇すれば、科学者も手が出せない状態に成る。
枯渇や全滅を予想させる国家制度や競争経済組織に対し、人類的視野に立つ抑制と変革とが必要である。 (松下注:イラストの出典 Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1954.)