バートランド・ラッセル「宣伝を見破る力」
牧野力(編)『ラッセル思想辞典』所収
* Source: Education and the Social Order, 1932.教育の本分のなかで最も重要かつ無視されているものの一つは、どうすれば少ない資料(情報)に基づいて、正しい結論を導くことができるかを教えることである。論理学者としての厳密な論理からいえば、この言い方はまったくナンセンスだと、私は十分自覚している。しかし、実生活におけるあらゆる成功には、このような明らかに不可能に見える離れ業をやってのける能力がなければならない。戦いに勝てる将軍(指揮官)は、敵の打つ手を正確に予測できる人間であり、組織で成功する人は、短時間の面接だけで有能な部下を選び出すことのできる人間である。成功するような科学者でさえも、後に立証されるようなことを憶測できた人間にすぎない。政治においては、理性的な人間でも、合理的な結論を得ることを可能にするほど十分な資料(情報)など存在しない。
にもかかわらず、理性的でしかも抜かりのない人間ならば、それらの少ない資料(情報)から賢明な結論に達することもまれではない。これらをなしとげるためには、科学的に見て偏っていないことや仮説的な思考能力が必要である。しかし、その上に、さらに必要なものがある。必要なその素質とは、漠然と「判断力」と呼ばれているものである。「判断力」は、特定の方面において適切な資料(情報)による経験を積めば、(少なくともその方面においては)大いに進歩する能力である。若い人達は、教育期間中のある段階で、誤解を招くことが事前に知られている雄弁に耳を傾け、過去の出来事についての党派的な声明を読み,実際に何が起こったのか推測を試みることによって、政治的宣伝に対する判断の仕方を教えられるべきである。・・・。それは人々に宣伝に対する免疫を与える(免疫をつける)ための技術である。
(松下注:イラストの出典 Russell's Good Citizen's Alphabet, 1954.)