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バートランド・ラッセル「意味論的パラドクス」

* 出典:牧野力(編)『ラッセル思想辞典


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藤川吉美 氏(1985年執筆当時は成蹊大学講師、後に九州女子大学学長)による解説です。以下の解説は、ラッセルの著書から引用しているわけではなく、藤川氏による紹介(解説)ですのでラッセルの著書の原文を添付していません。
 藤川氏があげている参考文献: Bertrand Russell's Introduction to Mathematical Philosophy, 1919

 代表的な「意味論的パラドックス」は「エピメニデスのパラドックス」あるいは「嘘つきのパラドックス」と呼ばれるものである。それは次のように示される。まず、クレタ島人であるエピメニデスが「すべてのクレタ島人は嘘つきである」と語った。もしこの言明が真であるならば、その言明を発したエピメニデス自身クレタ島人であるが、彼は嘘をついてはいないことになり、この言明は偽であらねばならない。一方、もしこの言明が偽であるならば、彼はクレタ島人として嘘をついていることになり、この言明は真とならなければならない。これは明らかに矛盾である。
 次に、「リチャードのパラドックス」(一九〇五)は、「一〇〇字以内で定義されない最小の自然数」が、まさにこの言明によって一〇〇字以内(注:19字)で定義されている、という意味でのパラドックスである。「ペリーのパラドックス」(一九〇六)および「グリーリングのパラドックス」(一九〇八)もこれに類似した「意味論的パラドックス」である。

 これらのパラドックスはすべて言語のレベルを「対象言語」と「メタ言語」に区別することによって解決される。確かに、「わたくしが述べていることは偽である」という言明は、それが真ならば偽であり、それが偽であるならば真であるということになり、意味論的なパラドックスにおちいるが、言語のレベルを混同しないで、「対象言語」(基準言語)と「メタ言語」(基準言語について語る言語)とに区別すれば、このパラドックスは容易に回避される類のものである。
 しかし、ラッセルの「"単純"階型理論」(simple theory of types)では、こうした意味論的パラドックスは回避され得ないことをラムジー(E.P.Ramsey, 1903-1930)は指摘した。(ラムジーの項参照)(藤川)