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(語学テキスト) 佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊)pp.88-89.

目次

'Love thy neighbour as thyself'


(汝のごとく)'汝の隣人を愛せ'と言いながら・・・

Our current ethic*1 is a curious*2 mixture of superstition and rationalism.*3 Murder is an ancient*4 crime, and we view it through a mist of age-long horror,*5 Forgery*6 is a modern crime, and we view it rationally. We punish forgers, but we do not feel them strange beings set apart,*7 as we do murderers. And we still think in social practice,*8 whatever we may hold in theory, that virtue consists in*9 not doing rather than in doing. The man who abstains from*10 certain acts labelled*11 'sin' is a good man, even though he never does anything to further*12 the welfare of others. This, of course, is not the attitude inculcated*13 in the Gospels:*14 'Love thy neighbour as thyself' is a positive precept.*15 But in all Christian communities the man who obeys this precept is persecuted,*16 suffering at least poverty, usually imprisonment, and sometimes death.
【ヒント】
 われわれの倫理は何と何の混合物か。murder はもちろん知っているはずだが forgery は知らない諸君もあるだろう。それは後廻しにしよう。いわゆる美徳とは何かをすることか,それともしないことにあるのか。善良な人とはどういう人なのか。「汝自身のごとく汝の隣人を愛せよ」という福音書の教えを実践したらどういうことになるか。
【語句】
*1 current ethic「現行の倫理」つまり純粋な理論としての倫理に対して言ったもの。
*2 curious mixture「奇妙な混合物」
*3 rationalism「合理主義」「純理論」
*4 ancient は「昔の」と「昔からある」と二つの意味がある。
*5 mist of age-long horror「年をへた恐怖のもや」
*6 forgery「偽造行為」, forger は「偽造犯人」
*7 set apart「われわれとは切り離された,別箇の」
*8 in social practice「社会の慣例としては」,これに対し in theory は「理論としては」である。in practice と in theory は対句としてよく使われる。用法:Your plan is excellent in theory but it would not succeed in practice (君の案は理論的にはすばらしいが実行に移したらうまく行かないだろう。)
*9 consists in「~に存する」
*10 abstain from「~を控える」「~をしない」
*11 labelled[leibld] 'sin' 「罪というレッテルをはられた」「罪と銘打たれた」
*12 further(v.t)= promote.
*13 inculcate = fix firmly by constant repetition「諄々と説く」「教えこむ」これは to inculcate ideas on a person のような連語で使われる。
*14 the Gospels マタィ伝(Matthew)マルコ伝(Mark),ルカ伝(Luke),ヨハネ伝(John)の四つ福音書。
*15 positive precept「積極的教訓」
*16 persecute「迫害する」この文の終りのところは,「汝の隣人」がもし戦争中の敵国ででもあったならば,こういう結果になるわけである。

【構文】
as we do murderers の do は feel の代動詞。whatever we may hold in theory は譲歩の副詞節,1abelled 'sin' は前の acts を修飾する。
【邦訳】

 われわれの現行の倫理は迷信と合理主義の奇妙な混合物である。殺人は古くからある犯罪で,われわれはそれを年をへた恐怖のもやを通して見る。偽造は現代の犯罪でわれわれはこれを合理的に見る。偽造犯人は処罰するが,殺人犯人のように,われわれと別箇の変った人間とは感じない。そして,理論上はどう考えようと,社会の慣例としては,美徳はものを為すことよりむしろ為さないことに存すると今なお考えている。「罪」と札のついたある種の行為をしない人は善人である,たとえ,他人の幸福を助長することは何もしなくてもである。これはもちろん福音書で諄々(じゅんじゅん)と説かれている態度ではない。「汝のごとく汝の隣人を愛せよ」というのは積極的教訓であるからだ。しかし,すべてのキリスト教社会では,この教えに従う人は迫害され,少くとも貧困に苦しみ,投嶽されるのが普通で,時には死刑さえ受けるのである。