佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』から
* 出典:佐山栄太郎(編)『訳注ラッセル選』(南雲堂,1960年7月刊 語学テキスト)pp.60-61目次
The Happy man is the man who lives objectively |
幸福な人とは客観的に生きる人 | |
The man who suffers from a sense of sin is suffering from a particular kind of self-love.*1 In all this vast universe the thing that appears to him of most importance is that he himself should be virtuous. It is a grave defect in certain forms of traditional religion that they have encouraged this particular kind of self-absorption.*2 The happy man is the man who lives objectively,*3 who has free affections and wide interests,*4 who secures his happiness through these interests and affections and through the fact that they, in turn,*5 make him an object*6 of interest and affection to many others. To be the recipient*7 of affection is a potent*8 cause of happiness, but the man who demands affection is not the man upon whom it is bestowed.*9 The man who receives affection is, speaking broadly,*10 the man who gives it. But it is useless to attempt to give it as a calculation,*11 in the way in which one might lend money at interest,*12 for a calculated affection is not genuine*13 and is not felt to be so by the recipient. (From: The Conquest of Happiness, 1930) 【ヒント】 宗教では罪の意識を強調するが,これを信じる人は自分だけ徳ある人になればよいと考えるので,とかく自己愛に陥りがちである。これは幸福になる所以ではない。幸福な人というのは愛情を自由に示し、多くのことに興味をもつ人で、そのような愛情や関心事を通して人から好意をうけるのである。人から愛情を与えられるのは,こちらが人に愛情をもつからで,その人に与える愛情も勘定ずくではだめである。この文で interest の二様の用法があることに注意する。 |
【語句】 *1 self-love「自己愛」「自己本位」 *2 self-absorption「自己専念」 *3 objetively「客観的に」 これはもちろん「主観的」の反対で、後者は自分というものに没入してしまうことである。「客観的に」の意味は次の文にもっと具体的に述べられている。 *4 interests は幾度も出る言葉であるが,「興味をひかれる対象」「関心事」という意味。 *5 in turn「今度はこちらの番で」 *6 object「対象」 *7 recipient[risipint]「受領者」 *8 potent「有力な」 同じ語源の potential 何能な, 潜在の)と混同しないこと。既出。 *9 bestow[bistou]=give,grant *10 speaking broadIy「大ざっぱに言えば」 *11 ca1ulation「計算」「打算」 *12 at interest「利息つきで」,これはきまった言い方。 *13 gennine「純正の」 【構文】 It is a grave defect … that they have enoouraged ... では It は that 以下を代表する。as a ca1culation は次の in the way 以下でふえんして説明され,in the way in which ... の which 前の in は落すことが出来ないことに注意する。この which の代りに that ならば in はいらない。
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【邦訳】 罪の意識に悩む人はある特殊な自己本位に罹かっているのである。この広大な宇宙において彼に(その人にとって)最も重要と思われるものは自分自身が道徳的であるということである。ある形の伝統的宗教はこういう種類の自己陶酔を奨励してきたがそれは重大な欠陥である。幸福な人とは客観的に生きる人である。自由な愛情と広い範囲の興味をもつ人,これらの興味と愛情を通し,また,それらの興味と愛情があるが故にこんどは他人から興味と愛情の対象として認められるという事実を通して,幸福を確保する人である。愛情を受ける人になることは有力な幸福の原因である,けれども愛情を要求する人は愛情を授かる人ではない。大ざっぱに言えば、愛情を受ける人はこれを与える人なのである。しかし,愛情を打算で与える,利息をとって金を貸すようなやり方で,愛情を与えようとしてもむだである。というのは、打算的な愛情はほんものではなく,また受ける人もほんものとは感じないからである. |